それからエプロンをした優子と並んで台所に立ったのだが。
「俺は野菜切るから、鍋を火にかけてもらっていいか?」
「はい」
少し高めの声で返事をした優子は、鍋に計量カップで水を入れたあと、冷蔵庫から味噌を取り出した。
味噌の登場、ちょっと早くないか?と疑問に思っている間に、優子はお玉にすくった味噌を水の中に投入した。
「えっ」
「え?」
味噌の塊が鍋の底に沈んで揺れている。
「……なあ、味噌汁の作り方、教えてもらっていいか?」
「お水にお味噌を溶かして沸騰させて、」
「うん、分かった。ありがとう」
優子の味噌汁がいつも不味い理由が判明した。
根本的に間違っていたんだ、何もかも。
味噌は沸騰させると味が飛ぶんだぞ。
「調理実習でやらなかったのか?」
「私、その日は熱を出して休んでしまって……」
なんてタイミングの悪い子なんだ。
「しかたない。俺が教えてやるから、まずはその味噌を鍋から出そう」
濡れそぼった味噌を傍らに、俺は優子に野菜の切り方から指導した。
小姑のごとく口を挟んでも、優子は素直に「はい」と従う。
やっていることは幼いのにまな板に向かうその横顔が真剣過ぎて、思わず噴き出しそうになるのを堪えた。
一旦救出した味噌を然るべき段階で再投入し、沸騰する前に火を止めて。
「よし、こんなもんだろ。どうだ?」