「斗馬クン、おはよー！」
翌朝、団地の階段の下で凌が俺を待ち構えていた。
「昨日はあれからどうなった？優子ちゃんはもう大丈夫？」
「おう。ついさっき学校に行った」
「そっかあ、よかったー！」
心配したり胸をなで下ろしたり、忙しない奴。
でも、まるで自分のことのように反応してもらえるって嬉しいもんだな。
「随分すっきりした顔してるね。いろいろ聞きたいんだけど、まずはこっちが先かな」
そう言って凌が鞄から取り出したのは、紙の束。
「昨日の授業のノート、コピーしてきたんだ。そんじゃ、まずは数学からいくね」
学校に着くまでの短い道程の中で、凌は昨日の時間割通りに各教科要点を絞り抜いた超短縮授業を施してくれた。
教師より解りやすくて、コイツの頭の出来の良さをしみじみ実感する。
おかげで今日の授業にもついていけそうだ。
「ありがとう、助かった」
「学校のことはオレに任せてって言ったでしょ。礼には及びませんことよ！それと、欠席の理由とか、うまいことやっといたから安心して！」
「そう、か……？何から何まで悪いな」
やけに鼻を高くしている様子に違和感を覚えながら、豪奢な珠のオブジェが輝く正門をくぐった。
すると。
「あ、服織女くーん！疑ってごめんね！」
「がんばってー」
「負けちゃダメだよ！」
女子とすれ違う度に、ことごとく謎の謝罪と声援を受ける。
なんだ、これは。
一昨日から状況が一変している。
凌を見上げても、誇らしそうに胸を張っているだけだ。
コイツ、何を仕出かしてくれたんだよ。
