「熱いから気をつけろ」


湯気の上がるおかゆを差し出すと、優子はしばらくそれを眺めてから、「いただきます」とスプーンを手に取った。

ほんのり黄色い卵がゆを少しすくい、充分吹き冷ましてから口へ運んでいく。

俺は優子の向かいに腰を下ろし、少しむず痒い思いでそれを見守っていた。

おかゆはそんなに噛むもんじゃないだろう、とつっこみたくなるほど時間をかけてそれを咀嚼した優子は、ゆっくり飲みこむと、ふっと息をついて。


「おいしい」


綺麗な三日月型に細められた目の下に、ぷっくりと涙袋が現れ、ほんの少しだけ口角が上がった。

ほんの一瞬だったけれど、見間違いじゃない。




優子が、笑った。




「斗馬さん、ありがとうございます」


もう真顔に戻ってしまったけれど、その表情はいつもより柔らかさを感じさせる。


なんだよ。




可愛いじゃないか。




「……たいしたことは、してねーよ」

急に恥ずかしくなって、目を逸らした。

優子がおかゆを全部平らげても、俺の耳はずっと熱いままだった。