その前にひどいことをしてしまったが、それはそのうち交換日記を読めば分かるだろうし、今は言わないでおこう。

怒らせたら何をされるか分からない。


「へえ、アンタがそんなことしたんだ。その様子じゃ学校も休んだってわけ?」


「悪いか」


「全然。つきっきりで看病するのが当たり前だし」


毛先の丸まった髪を頬で揺らして、踏ん反り返っている。

いちいち口が減らないな。


「でも、それって優子にとっては相当嬉しかったんじゃないかな。気に食わないけど、優子はアンタのこと大好きみたいだから」


「なんで俺のことなんか」


「家族、だからじゃない?」


そんな。

会ってそう時間の経ってない人間を、どうしてそこまで思えるんだ。

今までの自分本位な考えとは違う意味で理解できない。

俺は、優子に思ってもらえるほどの人間じゃないんだ。


もう赤の他人だなんて思えない。

だからこそ、尚更どう接していいのか分からなくなった。


「家族って言ったって……どうすりゃいいんだよ」


「そんなの簡単じゃん」


心愛は自信満々に言い放った。


「一緒に起きて、ご飯食べて、話して、笑って、寝ればいいだけよ」


そんなことも分かんないの?と肩に右ストレートをお見舞いされたが、さっきよりも随分力が加減されていた。


「……そんなんで、いいのか?」


「アンタはお父さんとそれ以上のことをしてんの?自分が今までこの家でしてきたことを、そのまましてればいいのよ」


目から鱗だった。

言われてみれば、そうだな。

親父には、気負ったり、計算したり、気を遣ったりしない。

いつだって普通だ。

思いやったり心配したりはするけれど、それも普通の一部で。