「幼稚園のころから、すごく大人しい子だった。でも、あの頃の優子は、ちゃんと笑ったり泣いたりする子だったの。

だけど小学校に上がって……おじさんが事故で死んじゃって……彩花おばさんが働きに出るようになってから、優子、だんだん感情を出さなくなった。

彩花おばさんが、お母さんが、自分のために頑張ってくれてるって分かってるから、どんなに寂しくても悲しくても我慢しなきゃって……一生懸命になってるうちに、きっと隠さなくてもいいことまで隠しちゃうようになっちゃったんだと思う」


初めて聞く、優子の生い立ち、あの無表情の理由。

知っていれば、知ろうとすれば、もっとうまくやれたのだろうか。


「でもね、ずっと一緒にいたあたしには分かるの。あ、今の優子は喜んでるな、とか、悲しんでるな、とか。だから、この前ここに来たとき、ずっと緊張してる優子を見て、新しい家族とうまくやれてないんだって確信した。

分かる?アンタのご機嫌うかがうのに必死で、ここじゃ少しも落ち着けてなかったんだよ。優子はずっとアンタのことかばってたけど、アンタのせいで相当傷ついたり疲れたりしてるんだって、あたしにはよーく分かった。

だからあたしはアンタのことが大っ嫌い。神世の人間がどんだけすごいとか関係ない。アンタには優子のお兄ちゃんになる資格なんてない」


心愛の言葉は辛辣だった。

しかし、その表情からは言葉ほどの憤りを感じられない。


「今日ここに来るまでは、そう思ってた」


一息置いて向けられた視線はトゲのないものに変わっていた。


「さっき見た優子の寝顔、優しかった。きっと安心できることがあったんだと思う。たぶん、アンタ関係のことで」


「俺?」


「決まってんでしょ。何があったのよ」


「何って……朝から優子が熱出してたから、薬買ってきて飲ませただけだ」