しばらくして、心愛が居間に顔を出した。

丁度湯が沸いたところだ。


「茶でも飲んで行けば?」


慣れない手つきで急須をいじる俺に心愛は目を丸くしてみせたが、すぐに口をとがらせ不満げな顔を取りつくろい、いかにも仕方なく、と言いたげにちゃぶ台の前に腰を下ろした。

交換日記は、こんなところに置いてあるのを見られたらまずいだろうと台所に隠した。

あまり色が出なかった淡白そうな緑茶を差し出すと、威嚇する猫の目を向けられる。


「何のつもりよ」


「別に飲みたくないなら捨てるけど」


「……飲む」


見た目の通り猫舌なのか、心愛はふうふうと息を吹きかけて慎重に湯呑に口をつける。


「まっずい!」


「清々しいほど正直だな、お前は」


「……優子はあたしみたいに、こんなふうに言いたいこと言えないのよ」


ぽつり。

今までの威勢の良さが嘘だったかのような呟きに、ただならぬ雰囲気を感じた俺は口をつぐんだ。


たっぷりの沈黙を前置きに、心愛は神妙な面持ちで語り出した。