「薬、買ってきたぞ!」
居間に駆けこむと、優子は俺が出て行ったときのままでいた。
額に汗がにじんでいる。
起こすのは忍びないが、薬を飲まないといつまでも苦しいままだろうから、意を決し肩を揺すってやった。
「おい、起きろ」
「……おかあさん……」
弱々しい呟きとともに、血管が透けそうな白いまぶたがうっすらと開く。
すがるものを探すかのようにさまよう視線が俺を捉えると、たちまちその瞳が揺れた。
「斗馬……さん……?」
母親を求めている先にいたのが俺なんかで申し訳ない。
本当は彩花さんに傍にいてほしいよな。
でも今は俺しかいないんだ。
「大丈夫か?薬、飲めるか?」
わずかに身じろぎしたそれを肯定の意だと受け取った俺は、台所へ水を汲みに行った。
戻ってくると優子はかろうじて起き上っていたが、頭の重さに耐えられないといった具合でふらふらしている。
「頑張れ。これ飲んだら好きなだけ寝て良いから」
俺は薬の箱を開けると、力なく垂れる細い腕を持ち上げてやり、柳のような掌にシートから押し出した錠剤を乗せた。
そしてコップを渡そうとするが、優子はぴくりとも動かない。
「……どうした、口に入れろ」
促して、やっと錠剤を口元へ持っていく。
ひとつひとつ言ってやらないと動かないようだ。
それほどきついのだろう。
俺は「コップを持て」、「水を飲め」、と指示を出す。
優子は弱音一つ吐かず言われるがまま、つらそうに眉をひそめはするものの、ちゃんと薬を飲んでくれた。
早く効いてくれるといいのだが。