走る、走る、走る。
ここから一番近いドラッグストアといったら、駅前のあそこだ。
二十四時間営業なんて無駄だと思っていたことを謝る。
そして感謝したい。
緊急事態は、時間を問わずにやってくるのだ。
走れ、走れ、走れ。
くそっ、背が高かったら、この足が長かったら、もっと速く走れるのに!
もう息が上がってきた。
それでも弱音なんて吐いてられない。
腕を振れ、地面を力いっぱい蹴るんだ。……
「斗馬クン!」
この声は。
急ブレーキをかけ、砂埃を上げて立ち止まる。
辺りを見回すと、片側一車線の道路の向かいの歩道で凌が手を振っていた。
「なんで、お前が……ここに、いるんだよ!」
切れ切れに言うと、凌が小学生のように右手を上げて人気のない道路を渡ってきた。
「だって、さっきワン切りしてきたでしょ?かけ直しても繋がらないし、心配になってお家まで様子見に行こうとしてたんだよ。何かあったの?」
「優子が」大きく息をついて、「優子が、熱、出した」
「優子ちゃんが?」
「俺のせい、なんだ……」
自己嫌悪が胃からせり上がって来る。
今も苦しんでいるだろう優子の倒れた姿が脳裏を過る。
カラカラになった喉に無理矢理唾液を流しこんで、俺は叫んだ。
「薬、早く買いに行かなきゃ……学校行ってる場合じゃねえんだ!」
はじめはきょとんとしていた凌が、状況を把握するにつれ、みるみる笑顔になっていく。
「分かった。学校のことはオレに任せて行っといで!」
突き出された拳。
「頼んだ!」
俺は、それに自分の拳をぶつけると、また走り出す。
「斗馬クン、行っけぇー!」
追い風を感じながら、全力疾走で駆け抜けた。