「…母親思い出すって、あの時のこと?」


食べ終わったお皿を重ね、テーブルの端に置きながら陽介が聞いてくる。


自然な時間から一気に現実に返された。


「施設で何かあった?」


口調が優しくて、涙が出そうになるのをこらえた。


「…まぁさ、言いたくないことは深く聞かねーけど、門限過ぎてるしこの後どうしたいのかくらいは言えよ?」


「施設には帰りたくない」


こんなに帰りたくないのは久しぶり。


別に嫌なことがあるわけじゃない。


いや、嫌なことは毎日だ。


でも、別にそれが帰りたくない理由じゃない。


何でか自分でも上手く説明できないけど、絶対に帰りたくなかった。


帰りたくないと言うより、帰るのが怖かった。