覇気の無い声で小さく呟いた私に、心配の声が掛かる。眼鏡を忘れた事実を話すと、貸そうか、とまで言ってくれた。そうして膨らむ期待を、上回る不安で塗りつぶしていくのは、最早作業。



「本当に大丈夫?」


「……大丈夫だって」



 掠める程度に見た彼の顔は、思いの外真剣げで、更に否定の言葉を重ねることなど、出来そうにもない。二人並んだ駅のホームはやけに静かで、話題を探すのにも時間を使えない。


 間もなくして電車が到着して、黙って乗り込んだ。


 空いた電車。湿気た空気が顔周りだけ熱で蒸すようで、長い座席の端に座った彼と柱を挟んで私は立っていた。今隣に座るなんてしたら、あまりの緊張で心臓が破れてしまいそうだ。


 座ったら、と言った彼に、私は首を振った記憶がある。気を遣って再び立とうとする彼を、慌てて止めた。わざわざ立っているのに、その隣に立たれては意味がない。


 暫くの沈黙。電車がレールを踏む騒音、周囲の学生たちの話し声が聞こえ、大して気まずくはない。凝視するようなことをしてばれると二度と口すら利けなくなってしまいそうで、時折ちらちらと彼の表情を伺う。


 でも、こんな時間も長くは続かなかった。


 ある意味の、救いととってもよかったかも知れない。手を振りながらこちらに歩いてくる二人の女の子。クラスメイトの子だった。



「おはよ!」


「おはよう」



 挨拶も見た目も対照的な二人。性格もそれに違わずといったところ。……そんな二人だが。



「妃奈、由奈、おはよう」



 れっきとした、双子である。