「あ……」



 せめて。私だって最低限の礼儀くらいある。


 お礼は、ちゃんと言わないと。そう思って口を開く。



「あり、がと……?」



 喉が掠れる程、殆ど息のまま出てきた声が、果たして彼に届いたのか。それは私には分からない。


 けれど、小さく頷いた彼の横顔を、視界の隅に捉えて。よかった、と安心する。


 鳴り止まない心臓は、一番の問題児。痛みを感じる程に大きな音を立てて、私の中の動揺を増幅させる。



「そういえば藍ってプラスチックのフレームのしか掛けないけど、ステンレスもいいな。……今度試してみたら?」



 突然の感想に、私は反応を躊躇う。


 どうして、私がプラスチック製フレームの眼鏡しか、使っていないって。


 私だって、今の銀の下渕の前は青だったとか、その前は茶色のプラスチックだったとか、太陽の眼鏡遍歴は多少覚えているけれど。


 ……だけど、それは。