――それから数週間、企業での研修が行われた。
その間、レイと連絡を取ろうとしたがことごとくカノンに邪魔された。
電話もよく分からないが音信不通で、メールだって届かない。
もしかして本格的に見捨てられたのかという恐怖に、彼本人に会うことが怖かった。
カノン君に言われた“彼を殺す”という言葉が耳について離れない。
「アリスちゃん、これとこれと…その資料をまとめてくれる?」
生物学を担当し、お手伝いをさせてもらっているエリザベスさんが私に資料を手渡す。
それを受け取りながら内容に視線を走らせ、キーボードに手を置いた。
「はい。あ、リザさんこの後、時間あります?遺伝子学について聞きたいことが――」
「あら、…嬉しい申し出ね。でも今夜会議があるから理事長についていなければいけないの。本当にごめんなさいね」
「あ、…そうですか。なら次の機会にでも」
「えぇ、是非。…あら、もうこんな時間…。悪いけれど会議があるから先に上がるわね。その資料、出来上がったら私のデスクの上に置いて帰ってもらえる?」
「…はい。お疲れ様です」
「アリスちゃんが来てくれて本当に助かったわ。今日までだけれど、また暇があったら手伝って頂戴ね。じゃあ先に失礼するわね」
最後に軽く微笑まれ、私もつられて口に笑みを浮かべた。
パタンというドアが閉まる軽い音を聞き、小さくため息をつく。
…とても同じ人間だとは思えないなぁ…。
立ち振る舞い、言葉遣い。
身のこなしなどすべてに優雅さを感じる。
アップにされた金髪は清楚であり、高嶺の花をも思わせる気品を醸し出していた。