「――まさか…雑貨屋に3時間入り浸るとは思って無かったよ…ッ喉乾いた…アリスのお茶、飲みたいな」

「ねぇカノン君。どこまで入ってくるのかなぁ…?」

「う、わ・・・冷たいな・・・。僕は君との愛を深めようと――」


流石に来客者にお茶もなしに帰れ、と言うのは無礼だろうかと思い、紅茶を入れるためにキッチンへ向かう。

本格的な紅茶セットは、レイが使わなくなったと言ってわざとらしく持ってきた代物。

彼としか飲むことのなかったティーカップを、他の男性との間で使うのはいささか気が引ける。

いつも常用している耐熱ガラスの透明のやつを用意していたら、カノンが目ざとくそれに気付いた。


「ふーん。そのお揃いのティーカップかぁ…妬けちゃうなァ…」

「私はレイ一筋なの。お生憎様、貴方専用のティーカップは置いてないから」

「…君ってそんなにシビアだった?まったく、僕というものがありながら他の男を作るなんて悲しいよアリス。僕らの初恋はいつの間にか自然消滅したのかい?」

「初恋は思い出で残しておくのが一番よ。それによく覚えてないし…どうだと言われてもね…」


ガラスのティーカップに紅茶を注ぎ、ダージリンの香りが部屋に漂った。

カノンはソファーに座り、クレープ屋で売っていたクッキーを広げている。

私もソファーに腰をおろし、カップの乗ったソーサを指先で押して彼に紅茶を進める。


「ありがとう。君の淹れた紅茶はとてもおいしいね。今度は手作りのお菓子が食べてみたいかな」

「あら、レイが淹れた紅茶の方がもっと美味しいわ。私が淹れるといつも眉を寄せるの、失礼よね。よく同僚がスコーンを焼いてきたからって、私が処理するのよ?甘い物が苦手ならそう言えばいいのに…」

「…よくもまぁ、仮にも君に好意を寄せてる異性の前で…次から次へと出てくるね。思い出した記憶の内容が僕との思い出だなんて嘘みたいだ」

「貴方の思いは一方通行ね。…でもそういう所、嫌いじゃないわ」


紅茶に口をつけて上目遣いで見つめてみると、彼はきょとんとした顔で私を見る。

翡翠色の瞳に見つめられて、私は少し顔を赤くして視線をそらした。