そう思って歩みを進めようとした刹那――・・・背中に何らかの衝撃。

危うく前に転びそうになる身体を抱きとめたのは、・・・私ではない体温。


「僕のアリスみーつけた」

「・・・は?」


後ろからすっぽりと抱きしめられながら聞こえた声。


「・・・カ、・・・カ・・・ッカノン君ッ!?」

「んー正解ッ!ご褒美にちゅーしてあげる」

「い、いらない!離れてーッ」

「やーだ」


暴れれば暴れるほど強く抱きしめられ、面白がられているのか、カノンの笑い声が耳に付く。

周りの視線が痛すぎて、今すぐに穴を掘って隠れたい。


「アリス、このあと暇だよね。僕とデートしようか?」

「し・な・いッ!用事があるの!暇じゃないッ!」

「釣れないなぁ、僕のこと好きなくせに」

「だ、誰がッ!」

「あれあれ、耳まで真っ赤だぞ?どうしてなのかなぁ?」


カノンに言われてはじめて頬が火照っていることに気づく。

うるさい位の心臓の音は、彼の言葉によって引き起こされているようだった。


「駅前においしいクレープ屋さんがあるって。一緒に食べにいこう?」

「行ーかーなーいーッ」

「いいから、いいから。奢って上げる。はいレッツゴー」

「あ、ちょっとッ!勝手に――」

「アリスは僕と一緒にいるの嫌なの?」


いきなり大真面目な顔で顔を覗き込まれる。

初めて会ったときの不気味さなんて、一片も垣間見せない翡翠の瞳。


「・・・嫌じゃ、ないけど・・・」

「なら行こうよ。たまには息抜きも必要だよ?元気ないみたいだし、また全部抱え込んでる顔してる。僕で良いなら話も聞くし、相談だって乗るから」

「・・・」

「そんな顔しないの。ほら笑ってよアリス」

「・・・ありがと」


自分がどんな顔をしてお礼を言ったのか分からない。

随分情けない表情をしているだろうと思っていたら、カノンの身体が離れ、手を優しく包み込むように握られた。


「行こっか、アリス」

「・・・奢りならね」