冷たく言い放つウィリアムの背中に思いっきり舌を出し、考え無しに捨ててしまった画鋲を探してみる。

梅や菊の柄を模した折り紙を払うと、鋭い金の先端が夥しい数並べられ、天井に向かって獲物を待ち構えていた。

針の餌食になった千代紙達は花のように活けられており、踏まれるだけの存在ではないと意固地に主張している。

血の付いた画鋲を回収する事は出来ず、チリリと痛む足の裏を擦りながら奥へと進んだ。


「ねぇウィリアム。貴方はどうして本家筋の人間なのに継承権がないの?私が見る限りストークス家の人間にしか見えないわ。もしかして余命数カ月の身だったり…その、いわゆる生殖機能が欠如しているのかしら」

「…お前、土足で人の心に上がり込むな。お子様には分からない深い事情があるんだよ。それより…そろそろお喋りは止めた方がいい。着くぞ」

「ん。はぁ…胸がドキドキするわ。こういう時は…手の平に小人を召喚して、踊り食いすればいいのよね…ッ!ウィリアム、小人を召喚する方法を知っている!?」

「……その口、そろそろ塞いでやろうか…」


開いていた折り紙を放って顔を上げると、悪趣味な金色に輝く両開きの扉が現れる。

膝をついて中の住人のお伺いを立てるウィリアムに答える声は、肌を刺すような威圧感がビリビリと伝わって来た。

全身に纏わりつく悪寒を振り払うために奥歯をギリリと噛みしめ、呼吸を整える。

手前の扉が引かれようとした瞬間、鞄に入れていた携帯が音を立てて鳴りだした。


 ――電源切るの忘れてたッ!どうしよう…社会的に抹殺される…っ!!


電源を切ろうと思い画面を見れば、数時間前に連絡を取ろうとしていた相手からの着信。

慌てるウィリアムを振り払い、通話ボタンを押して耳に押し当てる。

お互いに挨拶もない無言の間は、相手の出方を見るだけでなく腹の内を探るには十分な時間だった。

先に声を発したのは相手で、その声色が余りに懐かし過ぎて小さく唇を噛んだ。