紅色の千代紙を背にして塞ぎこんでしまったローズに、持ち込んでいたノート型端末を預ける。

ウィリアムに聞こえない程の小さな声でいくつか囁き、薔薇色の頬に口付けた。

数秒の躊躇いの後、私の顔を覗き込んだローズは目元に唇を押し付けてくる。

無言の同意の後、ローズをその場に残しウィリアムの背を押し先を急がせた。


「…ったく、言いたい放題言いやがって。半分本音だろ」

「あら、貴方の為にヒールを演じたと言うのに。あの子、昔から強情なのよ。貴方より扱いは上手いつもりよ?それに後半は私の恋愛観だから、共感できるなら参考にして欲しいものね」

「同意しかねるな。男は女を養える経済力あってこそだ。まだ考えが若いな。王子様を妄信する“お姫様”だ」

「あら仕返しなんて随分子供っぽい事をするのね。まぁ…私も経済力のある人はとても好ましいけれど…理想は話した通りよ。男にそこまでの選択をさせる女は究極だと思うの。使い古されたロマンスって幾つになっても憧れるものじゃない?」


ウィリアムに悪戯っぽく笑い、凍えて感覚の無くなりはじめた爪先を廊下に滑らせた。

進む度に濃厚になっていく香の匂いを袖で遮るが、肺いっぱいに充満した息を吐き出す度に吐き気が襲ってくる。

凡人には理解できない奇妙な装飾品に、まるで万華鏡が破裂して部屋中に宝石がめり込んだような歪な壁。

足の裏を抉る鋭い金属質の針に背筋が凍り、足袋を貫いて肌を貫通した“それ”を勢いよく抜き去る。


「い、痛ッたぁあっ!!何よこれ、画鋲!?何でこんな所に…」

「おい、此処は危ないから擦って歩けよ。あと折り紙は出来るか?」

「手を出すのは早いのに、口は遅いのね。それに折り紙なんて出来るわけないでしょう。その突発的な質問は廊下に散らばっている陳腐な折物も関係しているのかしら」

「口には気をつけろと言っただろう。今の内に下に落ちているのを開いて作り方を覚えておいた方がいい。此処から先何が起こったとしても自己責任で頼む」