――まるで磁石が反発したみたいに…これは一体…。


「あ、そうそう。父さん…いや蟲籠蓮苑の姿を許しが出るまでは決して目に映してはいけない。もし見てしまった時は、瞬きも、細める事も、まして逸らすことは絶対にするな。以前、流儀を知らない遠方の親族が掟を破ってな。その場で父さんに眼球を抉り出されてのた打ち回っていた。今では縁すら切られ、行方知れずだ」

「…わお、随分と短気で愉快なお父様だこと。何だか会うのが怖くなっちゃったわ」

「よく言う。ローズは…どうするか、な」

「ウィル、どうしたのですか?ローズは良い子にしているのです」

ウィリアムがローズに甘く問いかけ、ローズが笑顔で答える姿があまりにも警戒心の無い物だから自分のやっている事が馬鹿らしく思えてしまう。

少し歩いたところで御手洗いを案内してもらい、隠し持った花弁を袖の中で割り開いて、中に埋め込まれた異物だけを取り出す。

桜を模した繊維に包まれた“ソレ”は、パンドラの高度な技術を改めて実感させられる小型電子機器。

髪の毛の先ほどのサイズの“盗聴器”が、桜の着物を着てひらひら舞い落ちていたと思うと背筋が凍る。


 ――ここはストークス本家だもの、これ位…歓迎の証よね。


ウィリアムとローズの着物を避ける様に舞っていた花弁を見て気付いたのだが、まさか此処までとは思わなかった。

いつでも弾いて飛ばせるように中指の爪の間に小型の盗聴器を詰め込み、ウィリアム達と再度合流する。

また少し歩くと花残月庭を抜け季節が夏になり、文庭園の睡蓮ノ庭を更に先に進んで、初霜庭園の菊花ノ庭を抜けた頃から若干肌寒さを感じた。

その間幾つかの雑談を交わしていたのに、季節が冬に変わってウィリアムが急に黙り込む。