「おまた…せ。うぅ…ッ吐きそう…!なんか色々食い込んで…ううっ…」

「そう言えば何でハーグリーヴスの使用人服を着ていたんだ?あんな非常識な格好…破廉恥だ。年頃の娘だろ、恥を知れ恥を」

「む。好きであのカッコをしていたわけではないのよ。情緒不安定な王子様に監禁されていたから仕方なく、ね。決して不道徳な意味合いで着ていたのではないのよ。ましてや貴方が期待していた“破廉恥”な事は神に誓って無いわ。私って硬派なのよ、ふふふ」

「…おい、ローズ。本ッ当ぉおにコイツがアリスなのか。何かの間違いだろう。こんなへそ曲りの生意気な小娘がッ!?」

「まったくどういう意味よ。失礼しちゃうわ。行きましょローズ。ペドと仲良くしていたら、その内、変な薬打たれてショーケースに飾られちゃうんだから」

「はいアリスッ!ローズと一緒に行くのです~」


久しい友人との再会に心が弾み、着物が乱れるのにも関わらずパタパタと走り出す。

ひょこひょこと、ひよこみたいに付いてくるローズの手を掴み、ストークス本家を目指した。

ウィリアムの小走りの音が近づくにつれ、私とローズは二人して顔を見合せて笑った。

石橋を渡り終えた先の通行所でウィリアムが話を通すと、重たい木造の正門が開く。


「わぁッすごいのです!ピンクの花弁がひらひらでいい香りなのですよォ~!!」

「ようこそ、ストークス本家へ。俺はまず父さんに挨拶に行くから、アリスはどうする?」

「そうね…用事を先に済ませたいのが本音だけれど、ストークス本家当主とお近づきになれる機会を逃すわけにはいかないわ。その内嫌でも顔を合わす事になるだろうしね」

「わかった、紹介しよう。――…ローズ、廊下で遊ぶんじゃない。桜の花びらを踏んで転んでしまったら危ないだろう?」


ストークス正門を抜けた先には、板張りの長い廊下を沿って左右に桜の木が植えられている。

ひらひらと頬を擽る花弁は板張りの廊下を桃色に染め上げ、情緒的に季節を演出していた。

ありったけの花弁をかき集めて宙に放るローズは、自分も花と同じようにくるくるとステップを踏む。

転びそうになるローズの体を支えるウィリアムに苦笑しながら、廊下を埋め尽くす花を一掬いする。