「姫ィさま…聞いたことないな。何故、ストークスの人間だと?」

「蝶柄の扇子にストークスの家紋が描かれていたんだ。望みを聞く代わりに、私の言う通りにしろって。薬で眠らされて…目が覚めたら知らない場所だった。そして、テロリストに仕立て上げられていた。軍が突入して着たまでは覚えてる。それから俺…熱でぶっ倒れたんだ」

「ストークスの家紋は何処で知った?一般的に公表されている物なら、何処にでも流通しているし…一概にストークスの人間だと決めつける事は…」

「あれは…内部でしか使われない紋章だ。しかも焼印だったから…相当位の高い人間じゃないと所持出来ない筈。何か、書くものをくれ」


メモ用に使っている電子パネルを広げ、手書き入力できるように設定しノエルへと渡す。

サラサラと描き始めたノエルを見つめるローズが、両足をバタつかせて喜んでいる様が悔しい。

邪魔をするな、と冷たい態度を取っていながらも、けして怒鳴らずにむしろ嬉しそうだった。

ものの数分で書き終えた絵を俺に見せ、その精度の高さに驚きを隠せない。


「ストークス直系だった俺が見ても…これに間違いない。おいおい…待てよ、扇子に焼印があったと言ったな。どの部分だ。あとその扇子、どんな柄だった!?」

「骨の部分に焼き印があって…蝶の柄の…。今から描くから、ちょっと待ってろ」

「よく覚えているな…凄い記憶力だ」

「はい。ローズ達は記憶情報をパンドラ内に貯蓄できますから、見たものはすぐに引き出せるのです。凄い事ではないのです、ウィルのお菓子の方がもっとすごいのですっ!」

「ありがとう、ローズ。ならお前もそろそろ顔を洗う事を学習しような」


ローズの頭をポンポンと叩き、俺はノエルの描く絵を食い入るように見つめた。

俺の中で生まれた疑問が、きっと勘違いであって欲しいと心から願う。

しかし俺の願いを切り裂くように、精巧に再現される扇子を見つめて眩暈が起こる。

俺がストークス本家を離れる最後の日に渡した、この世で一本しかない蝶と椿の扇子が再び俺の前に姿を見せたのだから。