「――…ずっと…ずっと。もう一度会えたら…貴方に言おうと思っていました。…ノエルが居ないと…ローズはだめだめなのです。歯もちゃんと磨けないのです。ばかって、笑ってください」

「ばかだよ…お前。俺も…お前が居ないと、何も出来なかった。俺もばかだ…同じだな」

「ノエル…お帰りなさい。ずっと…貴方を待っていました」

「ただいま、アンネローゼ。元気で…何よりだ」


ノエルの腕の中に飛び込んだローズは、俺が見た事の無い笑顔で、穏やかに微笑んでいた。

腕の中で頬を寄せ、涙を流すローズの髪を愛しげに梳く男に…俺は酷く苛立った。

あそこは俺の場所ではなかったのか、と。

胸の奥の閉ざした部分が焼け付き、心臓がボロボロと爛れ焼け落ちていく感覚。

俺の体にローズの細い両腕の温もりが蘇り、表現し辛い程の焦燥感に駆られる。


「…ノエル、聞いてください。ウィルがローズをアリスに会わせてくれるらしいのです。今、ローズはウィルの所で暮らしていて、えっとミルクティーが美味しくて、スコーンのジャムがつぶつぶで…あと、あと…ッ」

「落ち付け、アンネローゼ。えっと…俺の名前はノエル・ラヴィンソン。アンネローゼが世話になった」

「俺は…ウィリアム・ストークス。ローズを先日保護して、今は家に滞在させている」

「ストークスの人間…なら姫ィさまは知っているか?俺、あいつに殺されかけたんだ。アリスに会わせるって理由で、テロリズムの首謀者に仕立て上げられた。どうにか無実を証明したいんだが…無理か?」


現在、ノエル・ラヴィンソンの置かれている状況はいたって芳しい物ではない。

本来ならもうとっくに処刑され、学園テロの首謀者として新聞の一面を飾っている筈だった。

酷い話ではあるが、危篤状態が続いている間に毒薬を流し込み殺害する事も可能だったと言うのに。

態々、首謀者と言われる人間を生かしている理由は、俺には理解できなかった。