『――おい、起きろ。アンネローゼ、起きるんだ』

『…う…あ、え…貴方は…』

『…ん、…どうしたんだ…?』

『嗚呼、アンネローゼだけを保護しに来たと言うのに。勇敢なナイト様もお目覚めか』


お洒落な装飾が施された帽子を被り、アンネローゼの身体を揺さぶる男の姿。

パンドラ内の精神世界に移行していた時、研究データを入手して中を見た事がある。

その際、研究員として施設にいた男“レイ・シャーナス”に間違いなかった。

俺は咄嗟にアンネローゼを庇い、唯一物体を把握できる左目で強く睨みつける。


『現在、パンドラのシステムにロックが掛ってしまっている。内部の変更が出来ない状態だ。だから至急、アンネローゼにデータ修復と処理、原因解明を頼みたい。お前はそのために生み出されたんだからな』

『…わかりました。また、どこか違う施設に送られる事になるのですか?前の施設は…その、ハートのジャックが…』

『現在、君達を安全にパンドラ内へ精神移行させることは無理だ。施設も全壊、設備を用意するのに2カ月は掛る。そこで、だ。強制的に投薬を続けてレベル5まで夢に堕ちてもらおうと考えたんだが…』

『投薬による精神移行は危険だと。お前の研究資料で読んだ。だからAT-3324VGが開発され、保護溶液の中で培養されながらパンドラ内へ精神移行が可能だった。これは危険すぎる』


投薬のみでパンドラに精神移行出来たとしても、どうしても“脳”がその情報を知覚してしまう。

AT-3324VGは脳が知覚する情報を完全に遮断し、完全に精神移行が出来る機械だ。

気が遠くなるほど膨大な情報が眠りネズミの脳へと流され続けることになる。

例えパンドラ内で精神が生きていたとしても、きっと眠りネズミの個体は死んでしまう。