『ひぃいっ!!お前おかしいぞ!?そ、んな…ッ簡単に!!』

『…うがぁあっ…!…ッは、やく…よこせッ!!』

『寄るな汚らわしいダストチルドレンめッ!!こんなもの幾らでもくれてやるッ!!』

『…ッう、ううっ…』


ポケットから取り出したキャンディを俺に投げつけ、地面に散らばった宝石を拾う。

空洞になった右目から夥しい程の血液が流れ、顎を伝って地面を濡らす。

3つのキャンディをポケットにしまい、右目を強く押さえつけてアンネローゼの元へ帰る。

ゴミの中に埋もれて膝を抱える彼女の傍らに立ち、小さな体を抱きよせてその手の平にキャンディを握らせた。


『…う、うぅ…ッ…白兎…?』

『…っほら。食べたがってたキャンディだ。俺はもう3つ食べたから、お前も3つ。半分こだ』

『え…あ…ありが――ッあ、嗚呼ッ!白兎、その右目…ッどうしたのですか!?』

『…落として無くしたんだ。いいからほら…食べてくれ』


アンネローゼが服のリボンを解いて、震える小さな手で右目を覆うように結いあげた。

ビニール質の包み紙を開き、中の宝石を摘まんでアンネローゼの口へ放る。

俺の目を気遣って泣き喚くアンネローゼに困り果てて、その両頬を左右に引っ張った。

ぐにぃっと引き延ばされるアンネローゼの阿保面が、涙に濡れてぐしゃぐしゃになる。


『…ほら、こうすれば笑える。お前は…アホ面が丁度いいんだよ』

『いひゃいのです…白兎』

『…やっと笑ったな。俺…お前の事、ちゃんと守れてるかな。俺…お前の役に――』

『…いいのですよ。眠りネズミは…幸せなのです』


血を流す俺の右目にそっと触れ、手が汚れるのにも関わらず左右の頬を優しく包み込む。

寒空の下、溝の掃き溜められた世界に、こんなにも温かい物がまだ残っているなんて。

両頬に感じる確かな“熱”に、俺は心底安堵し、声を上げて泣く。

額に小さな唇が押しつけられ、俺の頭を抱えるアンネローゼは俺が疲れて眠りに就くまでずっと背中を擦ってくれた。