『キャンディだとぉ…?』
『お願いだ…アイツが食べたいって…ッお願いします…何でもいい、一個でもいいから…ツ!』
『ふん。私がお前達ダストチルドレンに恵んでやるものか。と言いたいところだが。私も鬼ではない。こうしよう、交換だ』
『…こ、交換?』
俺の一体どこに交換できるものがあると言うのだろうか。
キャロルさんに貰った頃とは比べられない程、泥に塗れボロボロになった洋服。
赤く血のにじむ膝に、細く頼りなく伸びきった両腕、ボサボサの銀髪。
ダストチルドレン、と蔑まれ続けた俺からこれ以上何を奪えると言うんだ。
『お前の目付きが前々から気に入らなかったんだ。ダストチルドレンの癖に、まるで大人を馬鹿にしたようなその目。自分で抉り出して踏みつぶして見せろ。そしたら、これをお前にやろう』
『…ほ、んとうに…』
『嗚呼、本当だ。出来たら、の話だがな』
『…』
俺が考えたのは、目が無くなると不自由だとか、痛いだろうなって事ではない。
二つとも差し出せば、キャンディを二つくれて、眠りネズミがもっと喜ぶんじゃないかと。
呼んでもろくに返事をしなくなった彼女が、もしかしたら元気になるかもしれない。
あの馬鹿みたいに笑う顔を、俺の何を捨てたとしても…もう一度でいいから見せてくれ。
『…俺は…』
『何だ、怖気付いたのか?』
『眠りネズミの為なら…何だってやるんだよッ…!!』
『…おい、待て、冗談――』
歯が折れるほど強く食いしばり、右目に親指と人差し指を無理やり突っ込んだ。
冷えた指先が生温かい眼球に触れ、ドクドクと血液が脈打つのすら感じた。
眼球の奥の部分で視神経が引き千切られる音が響き、意識が飛ぶほどの激痛が俺を襲う。
プチン、と最後の糸が切れた生温かい球体を地面に叩きつけ、それを躊躇い無く踏みつけた。