『…おい、今一番食べたい物は…?俺が何でも…持ってきてやるよ…だから…死なないでくれよ、お願いだからッ…』

『キャンディが…食べたいのです。甘くて、口の中でとろける味…。きっと、美味しいのです…』

『わかった…俺が…持ってきてやるよ…。だからッ俺を残していくなよッ…!おい、眠りネズミ…ッおいっ…』

『…黒羊は…意識が遮断したら…パンドラ内での処理に移行するのです…もし、死んだら…ッきっと、白兎の事…助けられます…。今まで、守ってくれて…ありがとう…』


ここ数日ろくに口に物を入れないアンネローゼは、朦朧とする意識の中で俺の顔を見上げた。

栄養の足りない土色の顔は、俺が知っている眠りネズミとはほど遠い物。

少しでも栄養を取らせようと果物を口に入れるが、受け入れずに首を横に振るばかりだった。

俺は彼女の欲しがったキャンディを探しに出るが、何処を探しても見つからない。

途方に暮れた俺の前に現れたのは、焼き立てのパンを踏みつぶした紳士風の男だった。


『――汚いゴキブリが餌を漁っていると思えば…お前かぁ…久しぶりだな。もう一人の子は?まさか、死んでしまったのではないのかい?』

『…お前』

『口の聞き方に気をつけろよ。私はブランシュ家に籍を置く、ジョン・リーダム・C・ブランシュであるぞ』

『キャ…キャンディを…持っていないか』


ボコボコに殴られて赤黒く爛れた口にどれだけ力を入れても、前の様にうまく回ってくれない。

数日前から続く酷い頭痛の所為で、紳士風の男を見上げるのすら億劫だ。

甘ったるい化合物の匂いが体臭と混じり、吐き気さえしそうな嫌な匂いを発する。

見上げた紳士風の男は上質なスーツを着こなし、杖で俺の肩を強く押した。