『…電話…ッとって…っそこにあるから…ッ』

『あ、これかッ!?』

『…う、も…しもし…貴方、助けて…ッ苦しいの…!早く病院に電話を…』

『――わかったよ、今すぐ俺も向かうから』


苦しそうに何度も浅く息を吐くキャロルさんを気遣っていると、アンネローゼがベッドからのそのそと起き上がって来た。

瞼を擦りながら俺に声をかけるアンネローゼは、倒れたキャロルさんに駆け寄り何度も揺さぶる。

その時、家の扉を乱暴に開いて息を切らした男性が、こちらに近づいてきた。

キャロルさんにちらりと視線を向けた後、俺に向かって耳を塞ぎたくなるほどの罵声を吐く。


『お前が…ッお前達が!!マリーを…ッ!!一体何をしたッ!?』

『急に倒れたんだよっ!早く病院に連絡を…』

『うるさいッ!触るなッ!!お前…マリーをどう言い包めたか知らないがッさっき市場でオレンジを盗んだダストチルドレンだろッ!?出て行けッ!!』

『ぎゃッ!痛ッ…逃げるぞ、此処にいると危ないッ!』


力任せに振り上げられた拳が右肩を抉り、感じた事の無い痛みが全身掛け巡る。

オレンジの袋を引っ手繰り、アンネローゼの手を引いてキャロルさんの家から飛び出した。

市場近くの市街地から離れ、何時間も走り続けた後、溝臭い路地に辿りつく。

ひび割れた荒地のような喉を、乱暴に握りつぶしたオレンジの果汁で渇きを満たした。