『妊娠中だから酸っぱい物が食べたくなるのよ。もしよかったら、家にいらっしゃい。貴方にぴったりのお洋服があるの。美味しいお菓子も出すわ』

『…もうひとり…』

『え?』

『俺と、もう一人…女の子が居るんだ。その子…熱、あって…』

『えぇ。一緒に連れてらっしゃい。大変だわ、お茶の準備をしておかないと』


手を引く妊婦の名前はマリーナ・キャロルというらしく、本来なら俺と同い年の子供が居る筈だったらしい。

不妊治療を20年前から続け、3年後にやっと体外受精の許可が出たというのに、医療機関側のミスで提供された卵子が死滅。

それから17年間ストークス支援の元、今年やっと子宮に胎児を宿すことが成功したらしい。

アンネローゼを連れてキャロルさんの家に招かれ、温かいミルクティーを出された。


『17年前からね。ずっと…毎年買ってしまうの。男の子か、女の子かも分からなかったから。ふふ。少し、可愛すぎるかしら』

『ありがとう…なのです。…うぅ…頭がぼーっとするのです』

『熱があるのね。温かくして眠っていれば大丈夫よ。それに、ふふふ。晩御飯のポトフが全部平らげられちゃった。オレンジを剥くわね』

『この服…どうやって着ればいいんだ?ボタンがいっぱいあって…』


フリルの沢山ある襟元を正し、黒いリボンを結い直すキャロルさん。

アンネローゼに解熱剤を飲ませ、ベッドに運び眠るまで付き添う姿は本当の母親のようだった。

寝息を立てるアンネローゼに安堵した表情を浮かべる彼女は、肩が冷えないように毛布の乱れを直した。

アンネローゼを寝かしつけたキャロルさんは、クッキーを頬張る俺を見てにこやかに微笑む。