『今日は此処に隠れよう。明日、アリスに会う方法を考えるんだ。だから…』

『はい。白兎。そうするのです。こうしていると…とても…温かいのです』

『…俺が、守るよ。お前の事…何があっても守りきってやる』

『白兎…』


俺に凭れかかるように眠ったアンネローゼと共に、土の匂いを感じながら眠りに就く。

この日から、数ヶ月に渡って続く寒さと空腹に耐える毎日が始まった。

夜を越える度に衰弱していくアンネローゼに何か食べさせようと、市街地の市場をふらふらと周る。

寒空の下、布一枚でうろついている子供に、人々は見下げた白い目で素通りしていく。

カートに積まれた球体の宝石は太陽の光を沢山浴びて、甘酸っぱい柑橘系の香りで肺を満たす。


『――ちょっ、とお客さんッ!困るよ、此処で食べて貰っちゃ!お代は!?』

『…金、は…無い。お腹空いていて…』

『おいおい、ダストチルドレンが買い物なんかに来るんじゃねぇよッ!』

『ぎゃっ!』


売り物のオレンジが投げつけられ、齧り付いて啜った果汁が、顎に伝たいボタボタと零れる。

店主の罵声を背中に浴びながら、ころころと転がるオレンジを這いつくばって追いかけた。

コツン、と転がったオレンジが誰かのつま先に当たり、上を見上げると、商人に食べ頃な物を選んでもらい、紙袋に包んで受け取る女性が見えた。

立ち去る筈の彼女は足元にあるオレンジに気が付き、泥を払って俺に差しだす。


『大丈夫?』

『…あ、ありがとう』

『ふふ、お腹が空いているのね。よかったら、これもどうぞ。転んで落とさないように気をつけて』

『あ…ありがとう。でも俺…金なんてッ…』


オレンジの沢山入った袋を受け取り、見上げた先に居た女性は天使だった。

お腹の緩やかな膨らみで彼女が妊婦だという事に気づき、包容力のある温かさに涙が出る。

涙を誰かに見せるのが恥ずかしくて、俯いて何度もお礼を言った。

俺の頬に伝った涙をハンカチで拭き、男の子が泣くんじゃないの、と笑った。