『――よ、よ…ッし…!!こ、ここ…ま、でくれば…ッ!!はぁ…は、…ッおい、大丈夫かよ…!?眠りネズミ、おいっ…!!』

『へ、いき…なのです。あ、歩けますから…下してくださいなのですっ…!』

『いいから…ッあそこだ、あそこに隠れようッ…』

『は…はいッ…うぅっ…』


背中にしがみ付いていたアンネローゼは、ふらふらの足取りで前へ進む俺を気遣う。

ハートのジャックが俺達の居た施設に火を付け、俺達を笑いながら追いかけまわした。

黒い塊から鉛の弾が発射され、火の付いた木に深々とめり込んでいくのに恐怖した。

施設を囲む森を抜け、滅茶苦茶に走り続けて市街地の裏通りに腰を下ろす。


『クソ…何だよこの感じッ!意識があるってことは…パンドラ内での処理じゃないから…喋るのも変な気分だぜ。おい、どうだ…パンドラに接続できるか?ここはいったい…ッ』

『覚醒時は意識レベルが高すぎて…ッ接続が出来ないのですッ!レベル5まで意識を低下させないと…うぅっ…通常の人間は普通の睡眠でレベル4までにしか落ちる事ができません。私達も…保護液の中で強制的にレベル5まで落とされていましたが、構造的に人間と同じなのです。だから…っ』

『打つ手なしかよ…クソ…どうすれば。アリスに…ハートのジャックの事を早く伝えねぇと…ッ』

『アリスが…狙われてしまうのです。うぅっ…うぅう…!白兎、なんだか…寒いのです。身体が震えて…止まらないのですッ…ううっ…』


保護溶液から先に目覚めた俺は、アンネローゼを中から引きずり出して助けた。

部屋にあった適当な布を羽織り、火の回る施設内から脱出する事に成功したものの、初めての外気に身体が震える。

パンドラの環境システムは肌寒い16度に設定しているらしく、薄い布一枚では耐えられない程だった。

アンネローゼの体に身を寄せ、氷のように冷えてしまった手の平を握り込む。