『――お、い…ッおい!ジャック!そんな所で何やってるんだよ!!早く出ないと焼け死ぬぞッ!!』

『…やぁ…白兎に眠りネズミ。実際に会うのは…これが初めてだよね』

『お前…こんな所で何をッ!パンドラ内での干渉が一切できなくなって…てっきり施設を出たのかと思っていた…!とにかく、逃げるんだッ!!』

『逃げる?面白い事を言うね、白兎。綺麗だろ、まるで彼岸花が咲き乱れてるみたいだ。ゆらゆら風に揺れて…夢の中にいるみたいだろう?これ全部、僕がやったんだ。褒めてよ、白兎』


火の手の回る廊下を縦横無尽に駆け巡り、煙を吸わないように屋外の道を探していた俺とアンネローゼが出会った人物。

いつも茶目っ毛のある発言をしては、お茶会を賑わせていたハートのジャック。

轟々と燃え盛る炎はまるで奴を避ける様に揺らめき、青白い顔を更に怪しく際立たせる。

ほんの1年前から精神世界の共有が出来なくなり、それ以降一切干渉が持てないでいたため、アリスに続いて施設から出る事が出来たのだと思っていた。


『なのに…どうしてまだ、生きているんだ。君は、君達は…ッ僕の存在を貶める為に生きているんだろう!!僕を馬鹿にして!!君達はマークの直系の血筋に作られているのに…どうして、僕だけ。あの“アリス”が…何故、僕の代わりなんだよぉぉおおっ!!!』

『おい、何言ってるんだよッ!お前おかしいぞ、早くここを――』

『だから。壊すんだ。僕を馬鹿にした白兎も、眠りネズミも。アリスだって殺してやる。帽子屋も、全員…全員殺してゼロにしてやるんだ。この計画を破綻させてやるっ!!パンドラなんて、海に沈んでしまえばいいんだッ!!』

『ジャック!聞いて下さいなのです!!アリスは――ッ』


ハートのジャックが黒い塊を懐から取り出し、俺達へと向ける。

パン、と軽い音がした後、壁に深々と小さな鉛が埋め込まれているのに気付く。

話を続けるアンネローゼの手を引いて、奇妙な笑い声を上げるハートのジャックに追い掛けられながら逃げ続けた。