「嗚呼、もう五月蠅いなァ。さっきからレイ、レイ、レイってさ。あいつのドス汚い腹ン中見たら、きっと君泣いちゃうよ?…まぁその時は慰めてあげるんだけどね」

「あ、貴方にレイの何が分かるのよ!カノン君よりレイの方が優しいもん、カッコイイもん!!私とレイの関係に首突っ込まないでよ!!」

「その感情そのものが、あいつの策略にハマってるって言うんだよ。君を利用したいから、君に好意を持っているフリをしているんだ。何でわからないかなぁ…」

「別にそれでもいいって言ってるでしょう!?私が利用できる間は、私の事傍に置いてくれるもの!いいじゃないそれで…傍に居たいだけなのよ!」


どうしてカノン君はこうもレイを批判するような事を言うのだろうか。

そんな指摘をする余裕も無く、血が上った頭では彼に対する反論しか出ない。

どれだけお互いの意見を主張しても埒が明かない事を知り、腕を振り払った。

強く睨んでも彼は一歩も怯む事がなく、逆にその翡翠の瞳に諭されてしまう。


「…分かった。よくわかったよアリス。でも、君がレイ・シャーナスに好意を寄せるたびに…奴は危険になる。君は…レイ・シャーナスを殺すよ。悲しみにくれたお姫様を慰めるのも…悪くはない、か」

「それが、理解できないのよ。どうしてレイが死ぬなんて事を言うのッ!期間内に私の何を知ろうと言うの?貴方と出会った記憶なんて…レイとどんな関係が…」

「う、わ…僕との淡い初恋まで否定するんだ」

「そんなつもりじゃないわ。貴方の事覚えても無かったのに、今更…そんなの」


カノン君がこうもレイの事を否定するのかが理解できない。

私が生きていた中で一番苦しくて辛かった時期に、レイが助けに来てくれた。

神様なんて信じてないのに、まるで天使様が救いに来てくれたとすら思った。

涙も乾いて、自分の存在を自分で殺して、息をするのも億劫だった私が――。

彼の傍に立って、恋をしたのは奇跡だった。