「・・・そもそも、オトメのベッドに潜り込むなんていい趣味してるわね。変態。私にはレイという未来の旦那様がいるんだから傷物になるようなことしないでくれる?」

「酷い言われようだな・・・。アリスが期待してた、やらしー事なんてしてないだろ?」


ニヤリ、と口の元に厭らしい笑みを浮かべるカノン。

その表情に自分でも顔が赤くなるのを感じて、ティーカップを音を立ててソーサの上に置いた。

華奢な音を立ててソーサがカップを受け止め、水面が私の動揺を表す様に揺れている。


「そんな事考えてないッ・・・。そ、れより、私は抱き枕にされて全身筋肉痛なの。寝返りが打てなかったのッ」

「あぁ、そういう事。へぇ・・・やっぱりアリスは僕にやらしー事されたいんだ?」

「は、はいッ!?何故そげな事になるとですかッ!!」

「だってそうだろ?」


先ほどから耳障りなほど体中で鳴り響く心臓の音と、カノンがカップを置く音。

そして蕩けきった紅茶の角砂糖のような脳を、さらに溶かす甘い声。


「・・・僕に、マッサージされたいんだよね?」

「は、・・・はぁ!?」

「うん、わかってる、わかっているよ!君の体に鈍痛を教え込んだのはこの僕なんだ・・・ッ!さぁ服を脱ぐんだアリスッ責任を取って僕が君を癒してあげるよ!」

「ッ精神病院にでもいって来いッ!このセクハラ男ッ!!」

「はははッ健全な男子といってくれたまえ。冗談だよ、じょーだん。アリスが退屈そうだったから、からかっただけだって。ごめん、ごめん」


いつの間にか眠気などどこかに行ってしまっていて。

残ったのは体全体に響くうるさいぐらいの心臓の高鳴り。


「…不愉快だわ。私はレイのことが好きなのに」

「前は、だろ?」


否定に困っていると、カノンの指先が私の顎にかかり、優しく上を向かされる。

瞳に浮かぶ翡翠の色が、瞼によって見えなくなってしまった。

名残惜しく感じながらも、私も彼に合わせて穏便な動作で瞼を閉じる。

吐息が触れた瞬間、ポケットに入っていた携帯が連動し、着信が来たことを教えてくれた。