アド交換を断られたあの日に、諦めはついてた。
そもそも、咲の友達だからってほとんど話したことのない柳下にアドを聞いたのが間違ってた。


柳下は気づいてないみたいだけど、柳下はモテる。
だって、美人だ。

でも、俺はそれに魅力を感じなかった。
無愛想で、イケメンの先輩に守られてて近寄りがたいと感じてたくらいだ。



だけど、体育祭準備のあの日、俺に何かが起きた。


グラウンドでリレーの練習をしている時、柳下がこっち見てるな、とは思った。
それがあまりに退屈そうで。
つい気になってちらちらと様子をうかがっていたら、表情が少し変わった。
いや、というか、雰囲気が。
視線の先はきっとあの先輩たちか、桜葉さんだと思う。


練習が終わったから、咲を探そうって思ってたのは本気だった。
何ていうか、あれだ、魔が差したって感じで、気づけば柳下がいるであろう教室に来ていた。


その教室では衣装班が喋ったり、作業してた。


男子もいるんだな。

でも柳下がいるなら、いてもおかしくないか。


そんなことを思いながら、男子の視線を集める窓際の柳下に視線を向けた。

誰かに手を振っている。
笑ってるのが見えた。
後ろからこっそり近づいて声をかけてみる。


距離を縮めたのはほとんど無意識だったけど、その距離に戸惑ったらしい柳下が、なんだか少し意外で、可愛いと、思った。


だからつい頭を撫でたりなんかして
あぁ、失敗したな。
小さい頭にさらさらの髪。

体の真ん中で、どきんって音が響いた。