あの日、同じ保育園から上がった男の子が言った言葉は、汐映の小さな心に真実として突き刺さったんだと思う。



「おまえ、すてられたんだろ」


と。

その言葉を聞いていたらしい陽都と静が、その男の子に殴り掛かっていくのがスローのように見えた。

あまりにも汐映が反応しない。


まるで時間が止まったみたいにピクリとも動かない。
陽都たちがあんなに騒いでるのに、それに視線さえ動かさない。
揺れることすらない汐映の瞳は、どこを見て、何を思っているのかわからなかった。

恐い、と思った。

それと同時に心臓がどんどんうるさくなる。

でも、次の瞬間ふっと笑みが零れたのを見てほっとした。
よかった、信じてない。きっと帰ってくるんだって。


今にして思えば、あれは小学生の見せる表情じゃなかった。
嘲笑ってやつ。



あぁ、やっぱりね。


そういう感じだった。



それからの汐映は心の底からおじさんたちを憎んだけど
いつか迎えに来るって、期待してたような気がする。



11歳になって汐映は、空っぽになったあの部屋に帰ってきた。

尋会君と二人っきりで。