「これ、八ツ頭の煮っ転がし。ユキちゃん好きでしょって、お母さんが」
タッパーの入った、某大型百貨店の紙袋を渡される。
「八ツ頭って・・・アタシ、この前始めて食べたけど?」
「なに言ってんの、ユキ姉。お母さんの実家の福島から送られてくる度、煮てもらってたじゃん。あたしと、ユキ姉と・・・子供の頃から、すきだったでしょ」
「・・・そう、だっけ?」
「なに、三十路近くなると忘れっぽくなんのー?やだよあたしぃ」
ケラケラと笑いながら、アンコの細い鎖をはずして、小さな身体を抱き上げるアユミ。
「・・・そう、なのかな」
昨日の夢
昨日の夢
寂しい、悲しい、昨日の夢。
膝を伸ばして視線を上げると
庭先の桜が目に入り
昨日よりまた少しふくらんだ桜の蕾は
アタシの心を、蒼く冷たい不安で満たした。
「もうそろそろ、咲くよね。今年の開花予報は3日後だって。満開になるのは、速ければ一週間後」
アユミはそう言って笑うと、アンコの頭を優しく撫でた。
「サクラは、元気?」
「・・・元気」
「ユキ姉のネーミングセンスにはかなわないよね。ま、解りやすくていいけどサ」
サクラ
サクラ
サクラの木の下で拾ったからサクラ。
その時、一緒にいたのは
その時、一緒に笑ったのは・・・
「ユキ姉?」