「わん!」
カラカラと横に開ける玄関を出ると
玄関脇に小さな城を構える豆柴のアンコが嬉しそうにお愛想をふるってきた。
パタパタと鳥が羽ばたくように尻尾を振り、今にも尻尾の力だけで飛んで行きそうだ。
ちなみにもうそろそろ解ってきたと思うけど
2年前に来たこの子は
豆柴だからアンコ。
オスだけどアンコ。
『オスなのにアンコ?』
と、聞いてくれる人は、その時側に、いなかったけれど。
「わん、わん!」
撫でろ、構え、撫でろ、構え
ぴょんぴょんと忙しく跳ね回るアンコが
アタシには、そう言って甘えているように思えてならない。
この愛情一直線が、犬派の方々にはたまらないのかもしれないけれど
猫派のアタシには、何だか時々うっとうしいの。
「なによぉ。めんどくさい子ねぇ」
アタシは仕方なく膝を曲げて、アンコの頭をグリグリと撫でてやる。
キラキラと嬉しそうに輝くつぶらな瞳が、やっぱり安藤に似てる。
「可愛いは、可愛いんだけど、ネ」
なんというか、マスコット的な可愛さだ。
「豆柴は秋田犬にはなれないわネ」
「なに言ってんのユキ姉、当たり前じゃん?」
一昨日の安藤との会話を思い出してクスクスと笑っていたら
背後から声をかけて来たアユミに変な顔をされてしまった。