「えーっと…。これで登れと?」
うん。
あたし、今絶対顔ひきつってる。
「うん。まあ、大変そうに見えるけどさ、山登りっぽくて楽しいよ?意外と」
にこにこ話す、男の人。
山登りって…。
なんか、ずれてる。
やっぱおかしい。この人。
軽々しく『はい』と答えた自分に、軽く殺意さえめばえてきた。
「どうしたの?もう登っていいよ」
上から声が降ってくる。
見上げると、男の人はもう三階の音楽室らしき部屋に入っていて、あたしを見下ろしていた。
…登るの早っ!!
絶対やり慣れてるな、あの人。
…これは、もうやるしかないのか…。
きゅっとロープの端を握る。
こんなロッククライミングまがいのことをやるなんて…。