「それからあたしたちは、喋らなくなった。」
今まで、黙って聞いていた唯が大きなため息をついた。
「なんで、私言ってくれなかったの?
頼りないかもだけど、力にはなれたよ。」
「頼りなくなんかない。
ただ、迷惑かけたくなかった。進路に向かって頑張ってた時期だったし……」
それを聞くと、また大きなため息をだした。
「迷惑なんて思わない。
もっと頼ってよ!私たち、親友なんでしょ?」
「ごめんね。」
こんなにも、嬉しい気持ちになったのは、初めて。
あたしだけ、親友だとばかり思ってたけど……。
唯もあたしのこと親友って思ってくれてたんだね。
「ま、いいわ。過ぎたことは。でも、ごめんね。
思い出させちゃって……」
そういう唯の顔は、本当に申し訳ないという感じの顔だった。
ただ、後悔してる。
「なんで、あの日。あんなこと言ったんだろう。言うつもりなんかなかったの。ただ、雄貴があの子を信じるから……。」
今思えば、ただ嫉妬してたのかも知れない。
いつもみたいに、あたしの味方とばかり思ってたから。
だって、雄貴が昔あたしに言ったんだよ?
『誰が、なんて言おうと俺だけは浅倉の味方だから。』
嘘だったの?
いつだって、雄貴はあたしの見方だと思っていた。
何を信じていいの?
ねぇ、雄貴……。
「ずっと、頑張ってた。
あの関係を壊さないようにって。」
あたしの本当の気持ち。
雄貴を"好き"だということを。
「だから、告白なんてできないし、壊したくもなかった。
この関係を。
でも、それを壊したのは……
あたしなの。」
後悔しないようにしてたつもりだった。
でも、やっぱり後悔しちゃうんだよ。
「で、爽華は、どうしたいわけ?」
どうしたい?
あたしは………
ふぅ、と一息をついた爽華は再び口を開いた。
「今更、どうって考えないな。でも、一つだけ。
どうしても叶えたい願いがある。」
あたしの願うことは一つだけ。
「じゃあ、唯。またね。」
爽華は、唯に手を振って喫茶店を後にした。
唯は、その姿を見て呟きだした。
「爽華の願いか……。」
あたしの願いは、一つだけ。
それは、雄貴が幸せでありますように。
君が幸せならそれでいい。
ただ、それだけ。
「ふぅ、だから。二人って似てんだよなー。」
唯は、独り言をいいながら歩いていた。
どんなに、嫌いになっても。
どんなに最悪な別れたかをしても。
いつも考えるのは、君の幸せだった。
君は、あたしを救ってくれたから。
自分がどうなろうとも、君が幸せならそれでいい。
それが、
あたしの願いだから。
高校の頃の淡い記憶を思い出してから、早いことで3年が過ぎようとしていた。
この3年くらいの間で、あたしは昔の記憶を思い出して悲しくなることはなくなった。
あれから、唯とも会ってないし恭ちゃんとも……
もちろん、雄貴とも。
これが、あたしたちに起こる出来事だったのかもしれない。
そんなあたしでも、今のところ、あたしは少しずつ一本前に進んでる気がする。
「浅倉さん、今晩飲みに行かない?」
突然の同僚の飲みのお誘い。
この子は、常に飲みに行きたがるようなそんな人。
「うーん、今日はちょっと。」
「え、用事?
さてはデートだな~。仕方ないまた今度飲みに行こうね。」
デートって言ってないのに、勝手にデートってことにされた。ま、デートじゃなくもないけどさ。
「浅倉、ちょっといいか?
この企画なんだが……」
「はい、ちょっと待って下さい。」
部長に呼ばれ、急いで向かう。しかし、何か悪いことしたかな?
「はい、なんでしょうか?何か間違いがありましたか?」
いつも以上に笑みを浮かべていた部長に頭が?になった。
「浅倉くん、君に支店を移動してもらうよ。」
24歳が後少しで終わりそうな今日この頃。
あたしは、いきなり支店の移動が申しつけられた。
「あたしがですか……。」
内容は、今度内の会社の系列店が新しく誕生するらしく、そこに移動となったというもの。
「期待しているよ。」
部長は、あたしの肩をポンッと叩いて去っていった。
あ、あたしに断るって言う選択肢は相変わらずないわけね。
「ふぅー、移動か……。」
別に移動が嫌とかじゃない。
けど……
「ため息か?」
「え?……た、西条さん。」
一人考え事してると、上司である西条さんが絡んできた。
「その支店の場所、お前の地元なんだろ?
ん、元彼がいるとかか。
うんうん。あ、」
西条さんは、あたしの耳元で
「8時にいつもの店な。」と囁いた。
無言で頷くあたしをみて、西条さんは持ち場に戻った。
西条保。
あたしの上司であり、なかなかの期待されている人なのだと女子たちが騒いでいた気がする。
顔も整っており、長身だからなのかわからないが、人気だ。
他人事な言い方だが、一応あたしの彼氏なのである。
別に、彼氏とかいらないと思ったし作ろうとも思わなかった。
だから、西条さんが最初想いを告げてきたとき、丁重にお断りしたのを覚えてる。
西条さんは、それを不満に思ったのかとりあえず付き合えと言ってきた。
横暴かと思ったが、黙って頷いたのを思い出し笑えてきた。
「あたしって馬鹿じゃん。」
押されたら駄目みたいで、断ることが出来ないなんて、全然成長していない。
保さんのこと好きって聞かれると頷ける。
あの頃より、あたしは保さんが好きになってる。
ちょっと、俺様的な見た目のくせに
優しいところは、本当に有り得ないくらい優しい。
大人の男性の手本としてもいいんじゃないかっていうくらい紳士的で。
出会ったばかりのあたしじゃ考えられない。
でも、今は保さんが好きだ。
「ふふ、幸せそうね。」
上司の皆川さんが、あたしに向かって笑って言った。
「そうですか?
そう見えるなら、幸せみたいですね。」
「何言ってるの、惚気ないでよ。」
「皆川さんこそ、彼氏とどうなんですか?
最近、ご機嫌みたいじゃないですか。」
「なんでわかったの?
すごいわー。」
皆川さんは、本当に驚いていてそれなのに、彼氏の自慢話をし始めた。
聞いていて、こっちまで照れるような初恋のように初々しい話だった。
「今の彼氏さん、本当に好きなんですね。」
「そうよ。
爽華だって……無理してないでしょうね。」
「保さんは、ちゃんと好きですよ。無理してないですよ。
心配かけてすみません。」
皆川さんは、最初に保さんと付き合いだしたばかりの頃にあたしの本心を見破った。
心配してくれてる部分もあり、あたしのお姉さん的な人だ。
「ゴホン。」
部長の咳ばらいで、慌てて作業に戻るあたしたち。
今夜8時に間に合うように仕事を終わらせるように急ぎ気味で進めた。
時計の針が、8時を指したところで、西条さんがやって来た。
「相変わらず、時間ぴったりなんですね。」
「君こそ、早いな。
それと、敬語は止めてくれ会社じゃないんだ。」
ふふって笑って、あたしは「はい」って返事した。
あたしたちは、いつもの店に揃って入り席に座るとこれまたいつものメニューを注文した。
「実は、俺も移動になった。
君と同じ所なのだけどね。」
「保さんもなの?
やった、一人って心細いんですよね。」
「それでだ、俺は君に伝えたいことがある。」
いつも以上に真剣な声だから、食べてる手を止めて、保さんの顔をみる。
「……結婚してほしいんだ。
今すぐにと言わない、考えてほしんだ。」
「結婚ですか……。」
結婚。
保さんは、真剣な表情であたしにプロポーズをしてくれた。
「いきなり結婚とまではいわない。婚約でもいい。」
あまりにも真剣な表情すぎて保さんの質問にコクんとただ頷いた。
「そう簡単に頷いていいのか?一生のことなんだぞ。」
「そうですよね。
真剣すぎて、思わず頷いちゃった。」
「本当、君は面白いな。」
本当は、凄く嬉しいはずなのに。女の子だったら、誰だって一度は言われたい台詞なはずだ。
「君が、俺のことを真剣に好きになってくれてるのはわかる。だが、結婚となったら別のはずだ。」
ましては、好きな人に言われるなんてこんな嬉しいことはないはずなのに……
なんで……
こんなにも考えてしまうんだろう。
「だから、俺は長期戦で行くつもりだ。」
「長期戦?」
「今こうして君と付き合っていられるのは、諦めなかったからだ。
なら、結婚も長期戦で行く。」
保さんは、あたしが中々決めれないからそれを悟ってくれてるみたいに感じる。
「君は、これから一年後に俺にその時の気持ちを教えてほしい。別に、どんな結果だろうと俺は君を攻めるつもりはない。」
「一年後……」
「しかし、それでは俺が一番不利となるな。
条件付けていいか。」
爽華は、コクんとただ頷いていた。
それを見た保は、条件を言い出した。