「謝んな。
俺が好きで助けたんだし。
しかし、怪我なくてよかったな。」
「……ありがとう。」
勝手に手当して、保健室を退散した。
近くで先生たちが話していたことが聞こえた。
「しかし、何故に照明が落ちてきたんでしょうね。」
「随分と古いならわかりますが、まだ新しいのに。」
確かに、あの特設ステージはあたしたちが高校に入る前に買ったって先輩が言ってた。
だから、それが不意に落ちるなんてこと。
「悪戯でしょうかね。」
「悪戯にしては、危険すぎます。今回は、酷い怪我人がいなかったからよかったものの。
もしかしたら……。」
雄貴があたしを守ってくれなかったら、あたしは重傷の怪我してたかもしれない。
しかも、今日は劇の相手役が怪我して出演出来ずにいた。
間接的であたしには、被害なかったけど。
劇ができなかったかもしれない。
そして、照明が落下って。
ただの偶然なのだろうか。
あたしが、雄貴の横で難しい顔をしていた時に。
近くで不敵に笑ってる人がいたなんて知らなかった。
「浅倉さん、大丈夫だった?」
帰ろうとしたあたしたちの前に現れたのは西澤さんだった。
「あ、見てた?
うん、大丈夫だよ。
雄貴が庇ってくれたからね、怪我したなら雄貴かな。」
「こんくらいかすり傷だっつぅーの。
だから気にすんな。」
雄貴は、あたしの頭をくしゃって撫でた。
いや、撫でたより髪をグシャグシャとしたって言った方がいいのかな。
「そう、残念ね……。」
西澤さんがボソッと呟いたことには、あたしたちは気づきもしなかった。
「西澤さん、じゃまたね。」
「うん、またね。」
西澤さんは、あたしたちの後ろ姿を見送ったあとに言った。
「これから楽しみね」って。
これから起こることは、誰も想像してなかった。
学園祭は、色々あったけど無事に終了した。
特設ステージは、業者の人達がやってきて落ちてきた照明の撤去にあったっている。
「そんなわけだから、トラックには気をつけるように。」
トラックに気をつけるようにか……。
確かに、トラックが慌ただしく出入りしてる。
「それより、大丈夫?
最近変なこと起こってない?」
雅と美夜は、学園祭での出来事の後、あたしの身を心配してくれている。
今のところは、そんなに変わったことはない。
「偶然、偶然。
だから、何にも心配しなくて大丈夫だよ。」
って言ってるものの、現に今日の朝、足の裏を画鋲でさした。深く刺した訳じゃないから、たいした怪我じゃないけどね。
まさか、古典的な悪戯されるなんて思わなかったけどね。
そう、学園祭のあと画鋲といい小さな悪戯が起こるようになった。
「たく、二人して心配しすぎなんだよね。
大丈夫だよ、偶然の出来事じゃない。」
雅と美夜が心配していたのを交わしたと思ったら、ここにいましたよ。
心配していらっしゃるかたが。
「偶然にしては、出来すぎだろう。」
「それに、怪我とかしたら俺達黙っちゃいないしね。」
友達のピンチだっていって、雄貴と恭ちゃんは二人してあたしを守るなんていいだした。
頼もしいんだけど、あたしのせいでまた怪我しちゃったら嫌なんだけどな。
「ま、ありがとう。
二人に怪我させちゃうのは、嫌なんだけど……。
心配してくれんのは、なんか嬉しい。」
「なーに、遠慮してんだよ。」
「「俺達、友達だろ?」」
二人は、とびきりの笑顔であたしに笑いかけてくれた。
その笑顔をみるだけで、なんだか少し嫌な事も忘れられそうな気がする。
少しくらい、頼ってもいいよねきっと……
だけど、あたしたちの仲が壊れるのにそう時間がかからなかったんだ。
悪夢は突然襲ってくるものであって……。
とうとう、恭ちゃんがあたしを庇って骨折してしまったのだ。階段を降りていた、あたしを誰かが押した。
落ちるあたしに気がついた恭ちゃんは、あたしを庇って落下してしまったのだ。
命に別状は無かったのは、幸いだったに違いない。
しかし、恭ちゃんはあたしを庇って全治何ヶ月?の怪我をしたのは変えられない事実。
あたしのせいでまた、違う人が傷つくのは、本当に辛かった。
「そんなに、落ち込まないで。恭介も貴女を助けたかったから庇ったんだもの。
そんなに攻めないで?」
「そうだぞ、君に怪我がなくてよかったよ。」
恭ちゃんの両親は、そう言ってあたしを攻めることはなかったけれど……
あたしの心は、晴れないでいた。
だれが、こんなことをするのだろうか……
なんでこんなことをするのだろうか……。
西澤さんが、話があるといって次の日あたしを呼び出した。
恭ちゃんのことが心配だったあたしは、気にも止めていなかった。
まさか、西澤さんが全ての犯人だったなんて思わなかったけれど。
犯人がわかったから、雄貴に伝えなきゃ。
あいつ、人を疑うっていうことを知らないから……
危ない。
《ハァ……ハァ……》
『目障りなのよね、あんたみたいなやつ。』
《ハァ……ハァ…》
『可愛くもないのに、宮原君と柳田君とよく一緒にいることが気に入らないのよ!!』
まさか、こんなこと言われるなんてな……
ちょっとショックだな。
西澤さんじゃないって思ってたのにな。
『浅倉さんとお喋りしてみたかったの。』
『やったー、浅倉さんと同じだ。一緒に頑張ろうね。』
全部、ウソだったのかな?
信じてくれないのって意外と辛いんだね。
君は、味方なんだって信じてたんだよ?
西澤さんに言われてから、雄貴に伝えなきゃと走っていた。
「雄貴、西澤さんみたいだった。今まであたしに嫌がらせしてきてたの。」
あの子が、今まで……
そして恭ちゃんを怪我させて。
「だから……「お前……、そんなこと言うのかよ…。」
ビクッ。
あたしの言葉を遮った雄貴は、今までに見たことのないくらい怖い顔をして、雄貴はあたしを睨んだ。
「雄貴は、知らないんだよ。あの女が。どんな人なのか。あの女は……」
ドンッ。
雄貴がいきなり壁を叩いた。
「お前がそんなこと言うなんて見損なった。
お前は、そんな簡単に人を疑うような奴じゃないって思ってたのに。」
「え……。」
初めて言われた。
いつも、雄貴はあたしの味方だったのに。
信じてくれないの?
「がっかりだよ。」
いつから君は、そんなにも変わってしまったのだろう。
あたしの瞳からは、涙が一滴伝った。
「………り……よ。」
「浅倉?」
「がっかりなのはこっちよ!!雄貴が…西澤さんを信じたいなら、そうすればいいじゃない。あたしは……。」
涙が溢れ出してとまらまくなってしまった。
何が悲しいのか。
「もう、あたし。
雄貴とは喋りたくない。
あの子を信じる雄貴なんて見たくない!!」
パシッ。
走りだそうとしたあたしを雄貴は、腕を掴んで止めた。
「何よ、離して!!
あんたの顔なんてみたくないよ。」
「泣くなよ……」
「こっちだって、泣きたくて泣いてるわけない!!」
グイ。
雄貴が急に引っ張るから、あたしは雄貴に抱きしめられた。
「だから、離してよ!!」
「お前に泣かれたら、どうしたらいいかわかんねぇ。
だから、泣くなよ。」
「誰よ、誰のせいで泣いてると思ってるのよ。
雄貴が……っ……」
突然、唇が奪われた。
パシン!!
「ふざけないでよ。
もう嫌!!
雄貴なんて、大嫌い!!」
意味わかんない。
なんで、なんで……
キスなんてしたのよ。
なんで……
「意味わかんないよ。」
「大嫌いって、意外と堪えるよな。」
これでよかったんだろうか、君を守るためにこんな傷つけかたをしてしまって……。
雄貴は、爽華の泣きながら走る後ろ姿を見て、悲しそうに俯いていた。
その姿は、泣いてるのかわかんないくらい立ちすくんでいた。
これを起に、二人がふざけあって笑いあうなんてなかった。
高校を卒業と同時に地元を離れた爽華。
そんな爽華とは裏腹に、雄貴は地元の一番偏差値がいい大学へと合格したのであった。