トライアングル、ラブ



「あんたも、結婚話の1つや2つないの?」


「え?」


「お母さんとお父さん心配なんだよねー。
行き遅れるんじゃないかって。」

いや、余計なお世話だし。


「ふーん、そ。」


結婚なんて考えてないあたしは、速くその話を終わらせようと適当に空返事をした。


「知り合いは、皆結婚していってるっていうのに。
焦りがないのよ。」


焦りね………。


「昔は、雄貴君と仲がよかったのに。
ねぇー。」


え?


「ほら、よく家に遊びに来てたあの!」


「うん、そ。
あたし、疲れちゃったから寝るね?」


そう言うと、その場から逃げ出すように自分の部屋へと向かった。



久しぶりに聞いたその名前。


だから、帰りたくなかったんだよ。
君のことを思い出してしまうから……



忘れようと思った、
いや違う。

ただ、忘れたかっただけ。


ねぇ、今何してるの?
元気にしてるのかな?


ねぇ、雄貴……。


帰省して、2日たった今日。
あたしは、近所の小さな喫茶店で知り合いと会う約束をしている。


予定時刻より、20分遅れてあたしの名前を呼びながら


「久しぶりだね」

と、あたしの目の前に綺麗な女の人が現れた。

「……。」


「なーんだ。唯か……」


なんて、口にだしたもんだから唯から頭を叩かれた。

意外と痛いよね。


「アイスコーヒー、2つ。」


この人は、畠中唯。
あたしの親友の一人。
「それにしても。
久しぶりすぎるでしょ?
あんた、成人式に帰ってきたっきりでしょ?」


アイスコーヒーがくるまで、あたしは唯のお説教を喰らっていた。


「で、帰ってきたと思ったらいきなり会おうって。」


「すみません。」


「まぁ、いいわ。
帰ってきたんだし。」


唯は、なんだかんだ言って優しいんだよ。
そんなところが大好き。



と、円満?に収まったところでアイスコーヒーがやって来た。

アイスコーヒーを一口飲んだ唯は、あたしに言った。
「何かあったの?」

って。


何も言ってないし、電話で呼び出したときも普通に誘ったもん。




「どうして?」


「なんとなく」


敵わないな。
いつも、あたしのこと分かってくれてんだよな。


「ねぇ、唯……
唯はさ。
哉太と結婚って考えてる?」


哉太は、あたしの従兄弟であり、唯の彼氏でもある。



「は?」


いかにも、コイツ何馬鹿言ってんの?
みたいな顔をしている。


「お母さんにさ。
結婚の話されて……
唯は、どうかな?って思ったから。」



唯は、しばらく考え混んだように黙って、ため息を吐いた。


「結婚か……。
別に、今したい訳じゃないからな。
考えてないや。」


「そっか……」


やっぱり、考えてないもんだよね。
でも、唯は哉太がいるからいいよね。


「そんなこともないけど。
私と哉太だって、いつ別れるかわかんないんだよ?」


二人は、ちゃんと想いあっているから別れることなんてない。だから、結婚なんて考えなくたっていつだって。


「あたしには、相手居ないんだよ。」


好きな人だって……





「え?
あんたには、宮原がいるじゃない。」


「え?……」


まさか、この名前が出てくるなんて思わなかった。


「どうしたの?
すごい顔色悪いよ?」


「え?
大丈夫だよ……大したことないから。」


大したことない。
ちょっと、思いがけない名前を聞いて動揺しただけ。


この間もだった。


いつから、こんなになったんだろう。




なんで………
なんでこうも忘れられないんだろう。




「え?
どうしたの?」


明らかにびっくりしている唯が、目の前にいた。


頬を伝う涙。
なんで、涙なんて流れたの?


「ゴメン、ちょっとトイレ。」


なんで……。
どうして?
別に悲しくなんてないのに。


自分に何でもないと言い聞かせて、唯の元に戻った。


「大丈夫?」


「うん、へーき!
目にちょっとゴミが入っただけだったから。」


あはは、と唯に心配をかけまいとついた嘘。

大丈夫だよ。
何でもないんだよ。
ゴミが入っただけだから。



「もしかしてさ」


「ん?」


しばらく黙っていた唯が、口を開いた。


「もしかして、あんたと宮原って何かあったの?
……いや、あったよね。」


真剣な表情をあたしに向けて、唯は聞いてきた。


ふっ。
なんで、唯にはなんか分かっちゃうんだろう。
誰にも言ってないのに。
あたしとあいつにあったこと。

でも……


「唯には……関係ないから。
気にしないで?」


だって、聞いちゃったら考えちゃうでしょ?
なら、何も知らない方がいいから。