「あんたと話すことなんてないから」
(…………え?)
……って思うひまもなく。
彼女は立ち上がるとまた俺を見下ろし、釣り上がったその黒目にマヌケな驚いた顔をした俺を映した。
「私のことを知ろうとしない人に話す義務はないっ!」
そう怒りを込めて吐き捨てると、入ってきた時同様、彼女は颯爽と出て行ってしまった。
い…意味がわからないっ…。
残された俺は…いや俺達は、この一瞬に一体何が起こったのかを理解するには到底時間が足りなくて。
唯一できたことといえば、ただ茫然と、彼女が出て行って開け放たれた扉を見つめるしかなかった…−−−−。