チラッと俺を見た彼女は「笑ってんじゃないわよっ!」と怒ったが、そんなところも可愛いくて。


そしてなにより、ずっと俺の中で燻っていた不安が消えたことが嬉しい。
彼女の中にちゃんと俺がいることが嬉しくて。


「普通に嬉しいよ、素直」


「……だから。卑怯だってばっ!」


名前を呼んだだけなのに気まずそうに恥ずかしがる彼女が面白くて、これからはより一層名前を呼んでやろうと思った。


見事な月夜に車イスに手をのばした彼女は、あとちょっとのところでバランスを崩してベットから落ちたらしい。


車イスにのばしていた左手から落ちて左手首を捻挫。

頬はベット横の机の角で傷つけ、頭…と言うよりは左のこめかみあたりを切ってしまったらしい。


「大したことないのに、看護師さんが大袈裟なんだよ。顔や頭は血が出やすいからいっぱいでただけなのに」


そう言って頬を膨らます素直。