行きのタクシーの中はあんなにも早く着かないかとやきもきしていたのに、帰りのタクシーは魂が抜かれたかのように意気消沈していた。
流れる景色をボー…っと眺めてはため息を吐いて。
『あんなこと言わなきゃよかった…』なんて後悔はないが、『言ってやったぜっ!』って達成感もない。
強いて言うなら…カラッポって感じ。
胸にぽっかり穴が空いて、だけど頭の中には思い出の中のあいつでいっぱい。
笑った顔。
怒った顔。
大盛りカレーをたいらげるとこ。
すぐムキになるとこ。
たまにみせる寂しそうな顔。
強気な目。
あいつと過ごした僅かな時間の中の思い出たちを、その表情やしぐさをひとつひとつを思い出せる自分にやっと気がついた。
あぁ、俺…あいつが好きだった…−−−。