終業のチャイムが鳴って、先生が教室を出て行った後、私は開口一番に小春に話し掛けた。

 教室内は夢の世界から御帰還した生徒達が、いそいそと帰り支度を始めている。


「小春ー?どーしたの、空ばっか見て」

 小春はワンテンポ遅れて私の問いに気付き、ゆっくりとこっちを向いた。


「別に?………何かが降ってきそうだなぁ、て思って」

 そう言うと小春は小さく笑った。


 樋口小春はこういう人なのだ。出会って約二年、私が小春について知っているのは誕生日と血液型、それと強いて言うなら無類の紅茶好きと言う事ぐらいだ。


 そしてたまにこう言った含みある行動をとる。

 とにかく掴めない奴なのだ、こいつは。

 頭の中の単語辞書をまさぐって、小春の言葉に合う答えを引き出す。


「青天の霹靂?」


「んー……近からずも遠からず?」


 おしい、自分。



 疑問を疑問で返されても、そもそも「何か」って何だ…


 どこからホントでどこまで冗談か見当もつかない。


 クスリとおかしそうに笑う小春に問い返そうとしたが、「HR始めるぞー」と言う担任の声で会話は中断する羽目になった。


 渋々担任へと向き直った里美は、HR中不安そうに顔を歪める小春の表情を知ることはない。







 小春の右耳に付けている空色のピアスが一瞬光った、気がした。