その女は慌てた様子で、山井悠河の隣……。




つまり、俺の後ろに座った。




あーもう、うるせぇな。




ここに座った意味が全くない。




最悪だ、この男。




チッと小さく舌打ちをした俺に気付かない山井悠河は、そのまま話を進めていく。




「今さ、幼なじみの家庭教師的な人探しててさ。よかったら、やってくんね?」




「わ、私でよければっ……。女の子?」




「あぁ、女子女子!」




…女なんて、なおさら無理だ。




俺の顔だけ見てきゃーきゃー言うような生き物と、同じ空間にもいたくない。




断っておいてよかった。




と、一人安堵していると、山井悠河の口から聞き覚えのある名前が飛び出す。




「今女子校に通ってる、高校3年なんだけどさ!春沢ひなって名前で~」




「可愛い名前だね!女子校なんだ~」




……………ちょっと待て。




“春沢ひな”?




その名前には、いくつもの綺麗な思い出が詰まってる。




唯一、幼いながらの俺が俺でいられることができた小さな日だまり。




高校3年生ってことは……2歳差…。




あの子とは確か、3歳差だったか。




同姓同名って怖いな。




はぁーっとため息を吐く俺に、でっかい声が聞こえてきた。




「そうなんだよ!もう17なのにオレと結婚してくんないんだよ!!」




……17。