「よし淳、洗面器を……紙とペンはそこにあるな」

『ええっ!! まこ……ちょっ』

「月が出るのと同時に、一人睨めっこをする」

 二度目の、一人睨めっこを。

『っんな――!!』


 ガコーン


『痛ぇーーっ!!!!』

 淳が額を押さえて叫んだ。

 あー、この場面何回見ただろうか。

 そう思いながら俺は淳の額を直撃した物を見た。

『持ってきてあげたんだから早くしなよ』

 チイラが、居た。
 洗面器をくるくる浮かせながら。

「いっ、いつのまに……」

 俺はチイラをまじまじと眺めた。

『だって姿消せるもん』

 あっさりとした答え。
 まぁ、分かってたけどさ。

『早くしなよ、やるんでしょ? 一人睨めっこ』

 そこまで聞いていたか……。
 全く、霊って奴は。

「そうだな、ペンとか借りるぞ淳」

 俺は淳の机から紙とペンを取り出した。

『お……おう……』

「真奈美、洗面器に水を汲んできてくれないか」

『…………ん』

 真奈美は静かに頷いた。

『――本気でやるんだ?』

「当然」

 日没まで、後三分。