私はずっとお兄ちゃんが好きだった、
いつもやさしくて強くて笑ってるお兄ちゃんが。
でも勝彦と出会って、やさしさに触れて、
この人といたら絶対幸せになれるって思った。
お兄ちゃんへの好きとはちょっと違う好き・・・
上手くは言えないけど、私は勝彦が好き、
ずっと一緒にいたい、とても大切な人なんだ。
「勝彦・・・好きだよ・・・
大好きだよ・・・」
「俺もや、楓花・・・」
「勝彦・・・ありがとう・・・」
楓花か勝彦の胸の中で幸せそうに微笑んだ。
お兄ちゃん、幸せって誰にでも来るんだね?
私たち兄妹にはもう幸せなんてこないと思ってた。
テレビのドラマやドキュメントで見ていたことが
他人事だと思っていたことが、
突然自分たちに降り掛かって来た、
他人とは違う生活にやりきれない毎日、
同情はされても手を差し伸べられることはない、
ただ踏ん張って生きてるのに、
変えられない自分たちが悪いんだと
非難されることもあった。
悔しくて悔しくて何度も涙を流した。
そんなお兄ちゃんの姿を何度も見て来たよ。
誰に頼るわけでもない、
自分たちで生きていくしかないんだ。
そう思って今まで生きて来たよね?
それでも、人恋しくなることは何度もあった。
普通の生活がしたい、みんなと同じような恋愛がしたいって、
自分たちの生まれた環境を何度も恨んだよね?
でも・・・でも、こんな私たちを
愛してくれる人たちがいた。
自分のことのように心配して
身を削りながらも私たちを助けてくれる人たちがいた。
私たちも愛してもらえるんだ、誰かを愛していいんだ、
そう思わせてくれる人に出会えたんだね。
生きてて良かった・・・私は心からそう思ったよ。
今は、こんな環境だったからこそ、
素晴らしい人たちに出会えたんだと思えるんだ。
人生にはいつでも幸せへの扉がある、
そう信じて毎日を頑張っていれば
必ず幸せになるチャンスはまわってくるんだ、
お兄ちゃん、頑張って生きて来て
本当によかったね・・・
お兄ちゃん、幸せになろうね・・・
そして一年後・・・
コンコン。
「どうぞ。」
「楓花ちゃん、用意できた?
わぁ・・・楓花ちゃん綺麗・・・」
奈緒子は部屋に入ると楓花のウエディングドレス姿に
目を奪われた。
「そう? ありがとう。」
「やっぱり楓花ちゃんは純白が似合うね?」
「そうかな・・・?」
頬を赤らめながら照れる楓花。
そう、今日は私の結婚式なんです。
あれから勝彦と付き合うようになり、
二ヶ月後にはプロポーズを受けて今日に至ります。
「ねぇ将生、お姉ちゃん綺麗だね?」
「う、うん・・・楓花、きれいやぞ。」
将生は照れながら目を逸らしてそう言った。
「ありがとう、将生くん。」
楓花は将生にやさしく微笑んだ。
「お姉さんも着ればよかったのに。」
「そうね・・・でも着るとしても、
この子が生まれてからかなぁ~。」
そう言って奈緒子は自分のお腹を擦った。
そう奈緒子のお腹の中には新しい命が宿っていた。
「そうだね・・・」
楓花もそのお腹をやさしく擦った。
「お姉さん、お兄ちゃんは?」
「ああ雄志? もう着く頃やけど・・・」
「そう・・・」
お兄ちゃん・・・
楓花は心配そうに窓の外を見つめた。
コンコン。
「すいません!! そろそろお時間です。」
「あ、はい。」
係員の人が式の始まりを知らせに来た。
お兄ちゃん・・・まだ・・・?
「雄志遅いね・・・私ちょっと見てくるね?」
「うん。」
そう言って奈緒子が部屋を出ようとした時、
ガチャ。
扉が開き雄志が顔を出した。
「雄志!!」
「お兄ちゃん!!」
「ごめん、遅くなって。」
雄志は手を合わせながら楓花に謝る。
「もう、何やってたんよぉ~
もう式始まるよ!!」
「ごめん。」
「何しとったんよ?」
「親父をな、連れて来た。」
「お父さん・・・?」
すると雄志は車いすを押しながら部屋に入って来た。
「お父さん・・・」
「楓花。」
実はちょっと迷ってた、お父さんに式の前に会うかどうか。
確かに病気になって家族の距離は近くなったけど、
私の中ではまだまだお父さんとの
わだかまりが残っていたからだ。
お父さん・・・
楓花はチラッと父親を見た。
「楓花、綺麗や・・・」
父親は微笑みながらそう言った。
「お父さん・・・」
なんやろう、そう言われただけで、
その言葉を聞いただけで体の底から何かが込み上げてくる、
体があったかくなる。
「楓花、ごめんな今まで・・・」
「えっ!?」
「楓花や雄志にいっぱい迷惑かけて来た、
いっぱい辛い思いをさせて来た、
ホンマにごめんな・・・」
「お父さん・・・」
お父さんの口からこんな言葉が出るなんて・・・
ずるい、ずるいよ今さら・・・
楓花の目から涙がこぼれ落ちた。
「ごめんな・・・」
お父さん?
父親の目からも涙がこぼれ落ちる。
泣いてるの? お父さん・・・
「ごめんな・・・」
「お父さん!!」
楓花は父親のそばに駆け寄り膝を付いた。
「もうええよ、お父さん。
もうええんよ・・・」
そして父親の手を両手で握るとそのまま顔を伏せた。
「楓花・・・」
そんな楓花の頭を父親はやさしく撫でた。
「お父さん・・・」
お父さん、私もごめんね、
素直な娘じゃなくてごめんね・・・
幼い頃はとてもやさしかったお父さん、
そんなお父さんに私はいつも守られていた、
いや、今もこうやって守られているのかもね・・・
ありがとう、お父さん・・・