雄志は男の子に視線を戻す。
俺の子・・・奈緒子が一人で
生んで育ててくれた俺の子・・・
すると雄志は男の子を見てニコッと微笑んだ。
「雄志・・・」
「お兄ちゃん。」
俺の子・・・
すると、男の子もニコッと微笑んで、
「おとうさん!!」
と、雄志の元に駆け寄って行った。
そして駆け寄る男の子を、
いや我が子を雄志はやさしく抱きしめた。
「お父さん!!」
男の子は甘えるように雄志にすがりつく。
「お兄ちゃん・・・」
そんな二人の姿に楓花は思わず涙が溢れた。
「雄志・・・」
そんな二人の元に奈緒子がそっと歩み寄る。
「奈緒子・・・」
「信じてくれるの・・・?」
「えっ!?」
「あなたの子だって・・・」
「ああ、おまえがそう言うんやったら
そうなんやろう。」
「雄志・・・」
奈緒子の頬を一筋の涙が流れる。
「奈緒子、辛い思いさせたな?」
「雄志・・・ ううん・・・
辛くなって・・・ないよ・・・」
奈緒子は両手で顔を覆った。
「ありがとうな・・・
ホンマにありがとう・・・」
「ううっ・・・雄志・・・」
雄志は奈緒子も引き寄せると、
奈緒子と将生をその大きな胸で抱きしめた。
お兄ちゃん・・・本当に良かった、
本当によかったよ・・・
「楓花・・・」
「勝彦・・・」
勝彦、ありがとう。
おなたのおかげでお兄ちゃんは
幸せへの道へ一歩踏み出せそうだよ、
本当にありがとう・・・
楓花は勝彦の肩にそっと寄り添うと
勝彦はをやさしく楓花の肩を抱きしめた。
お兄ちゃん、絶対幸せになろうね・・・
お父さんは奇跡的にあまり障害が残らずに済んだ。
倒れた時はどうなることかと思ったけど
様態も少しずつ回復していき、
普通に会話ができるまでになった。
今は少しずつ歩けるようにリハビリを頑張っている。
そして私が何よりすごいと思ったのはお母さん、
あれだけ大変な目に合わされて来たのに、
毎日病院に行ってはお父さんの世話をしている。
これが夫婦ってものなのだろうか?
私にはとても真似できない。
本当にお父さんのこと心配したけど、
今までのことを思うと素直に
『大丈夫?』とは言えない。
病気になったからってズルイ。
そんな風にも思ってしまう。
私もまだまだ小さい人間なのかな?
そしてお兄ちゃんは勝彦の助けを借り、
お父さんには内緒で店を閉めた。
お父さんも薄々はわかっていたみたいで、
店のことには何も聞いてこなかった。
今はお兄ちゃんも勝彦の紹介で
就職した会社で一生懸命働き
お父さんの借金を少しずつ返してる。
そして奈緒子さんと将生くん、
小さなアパートで三人仲良く暮らしている。
奈緒子さんも苦しい辛い生活のはずなのに
文句一つ言わず、お兄ちゃんに着いて行ってくれている。
奈緒子さんには感謝してもしきれないくらいだ。
これが愛っていうやつなんだろうか?
借金を抱えてるのにお兄ちゃんも生き生きとしてるし、
奈緒子さんもとても幸せそうに笑ってる。
本当に微笑ましい家族だ。
お金が無くても幸せって手に入るんだなぁ~・・・
「楓花!!」
手を振りながら楓花の元へ勝彦が走って来た。
「遅いぞ!!」
「ごめん、ごめん。
まさか楓花の方が先に着くなんて
思ってなかった。」
「フフッ、私だってやる時はやるのよ。」
「それは失礼しました。」
「じゃあ今日は遅刻したから
昼ごはんは勝彦の奢りね。」
「はぁ!? 約束の時間には
十分間に合ってるやん!!」
「ダメ。私より遅いバツ!!」
「えぇ~!!」
「何食べようかなぁ~
さぁ、行こう!!」
楓花はそう言って勝彦の腕に腕を絡ませた。
「たくぅ~・・・」
呆れながらも嬉しそうに笑う勝彦。
「勝彦、ありがとうね。」
「えっ!?」
「勝彦がいたからお兄ちゃんも、
いや私たち家族は立ち直れた。
勝彦には感謝してもしきれない。」
「別に俺は何も。お兄さんが頑張ったからや、
俺はそのキッカケをちょっと作っただけ。」
「勝彦・・・」
「でも楓花の力になれたなら本当よかった。」
勝彦・・・
「ありがとう。」
楓花はギュっと勝彦の腕抱きついた。
「けどお兄さん、ホントよく働くな?
会社でもすごく評判良いみたいやで。」
「そうなん?」
「うん、社長がすごく褒めてた。」
「そっか・・・」
お兄ちゃん、頑張ってるんだ・・・
「本当にすごい人だよ、辛抱強いし、よく働くし。
俺には無いものをたくさん持ってる。
お兄さんのそうゆうとこ俺はすごく尊敬してる。」
勝彦・・・
あなたはそんな風にお兄ちゃんのことを・・・
楓花は熱いものが込み上げて来て涙が滲んだ。
「楓花?」
「ごめんなさい、なんか嬉しくて・・・」
「泣くなよ。」
勝彦はやさしく楓花の頭を撫でた。
「ごめん。」
勝彦の手、大きいなぁ・・・
あたたかいなぁ・・・
お兄ちゃんの手も大きくてあたたかいけど、
勝彦の手もまた違ったあたたかさがある。
この手に触れているとホッとする。
そうか・・・私やっぱり
勝彦のことが好きなんだ・・・