楓花は言葉がでなかった。
「お兄ちゃん・・・」
考えもしなかった、こんなこと・・・
お父さんがそんなとこから、
お金を借りてるなんて、
それでお兄ちゃんが暴行を受けるなんて、
考えてもしなかった・・・
なんだか力が抜け、気が遠きなって行く・・・
お父さんがお金を借りたせいで、
こんなことになるなんて・・・
お兄ちゃんがこんな目に合うなんて・・・
あんな酷い目に合うなんて・・・
私は何も知らなかったんだ、
家のこと何も知らなかったんだ・・・
じゃあ、悪いのはお父さんじゃない?
なんでお兄ちゃんがあんな目に合うの?
なんでお父さんはお兄ちゃんに
あんなこと言えたの?
信じられない・・・
信じられないよ!!
お父さんにとってお兄ちゃんは
都合のいい操り人形でしかないんだ。
私たちは所詮、お父さんのロボットなんだ!!
「ううっ・・・」
悔しかった。
良いように使われて、嫌なことは押し付けられて、
その上酷い目にまで合ってるお兄ちゃんを思うと、
悔しくて仕方なかった。
お兄ちゃんは一体何なんだろう?
何のために生まれたんだろう?
何のために生きてるんだろう?
何のために・・・
楓花の怒りが、やるせない気持ちが、
ギュッと握りしめられた右手に込められていく。
やっぱりダメだ・・・
もう誰にも任せられない・・・
私が・・・私がお兄ちゃんを守る!!
私が・・・お兄ちゃんを支えていく!!
もう、それしかない。
お兄ちゃん・・・
私がそばにいるよ、
ずっとお兄ちゃんのそばにいるよ・・・
楓花は決めた、もう誰にも頼らない、
誰にも渡さない!!
自分が雄志を支えて行こうと。
それから私は毎日、学校が終わってから、
お兄ちゃんの病院に通った。
体調が悪いと言って早退して
病院に行ったりもした。
お兄ちゃんには適当にウソついて、
学校早く終わったなんて言ったけど、
ごめんね?
じゃないとお兄ちゃん怒るからさ。
今は一秒でも長く、お兄ちゃんといたいんだ。
私が行くと、お兄ちゃんはいつも
窓の外を見て悲しい顔をしてる、
でも私が病室に入ると、
パァっと笑顔を作って迎えてくれる、
でもそれが私には辛かった。
私には辛いところ見せられないんだね・・・
やっぱり奈緒子さんじゃなきゃダメなの?
奈緒子さん・・・
あなたはどんな時でもお兄ちゃんのそばに
いるんじゃなかったの?
お兄ちゃんを支えてくれるんじゃなかったの?
やっぱりあなたも普通の人だったんだね・・・
それならそれでいい、
あなたがいなくなってくれた方が
私には都合がいい。
お兄ちゃん、わかったでしょ?
やっぱりお兄ちゃんを支えて行けるのは
私しかいないんだよ?
私がずっとお兄ちゃんのそばにいてあげる。
私がずっとお兄ちゃんを守ってあげるからね。
それから数日経ったある日、
私が病院に向かおうとしたら、
「楓花。」
「あっ・・・」
勝彦に呼び止められた。
勝彦・・・
私はお兄ちゃんが入院してから、
勝彦に連絡を取ってなかった、
何回も着信があったし、メールも来てたけど
返信しないままだったんだ。
「なんで電話取らへんねん。」
「あっ・・・その・・・」
「メールも返信ないし。」
「ごめん・・・」
楓花は申し訳なさそうに俯いた。
「なんかあったんか?」
「えっ!?」
「連絡できひん理由があったんか?」
「あっ、ちょっと・・・」
「なに!? どうした?」
心配そうに勝彦が私の顔を覗き込む。
「お兄ちゃんが・・・入院してもて・・・」
「えっ!? 入院!?」
「うん・・・」
「どうした!? どこか悪いんか!?」
「ううん、そうじゃないねん。
でももう大丈夫、回復に向かってるから。」
「そうか・・・」
ホッと肩を撫でおろす勝彦。
勝彦・・・
安堵の表情を見せる勝彦に、
楓花はあたたかいものを感じた。
「で、どこの病院!?」
「えっ!?」
「お見舞い行くわ!!」
「えっ!? いやぁ・・・」
「お兄さんは物は食べれるん?
何を持っていったらいいかな?
嫌いな物とかある?」
お見舞いに持っていく品をいろいろと悩む勝彦。
「勝彦!!」
「んんっ?」
「あのさ・・・」
「うん?」
「私たち・・・別れよう・・・」
「えっ・・・!?」
楓花は突然、別れを切り出した。
「なんで・・・?」
「もう別れた方がいいと思うねん・・・」
「楓花? なんでや、
なんで別れた方がええん?」
「・・・家も・・・大変やし、
私もまたバイト見つけて働こうと思ってる。
そしたら少しはお兄ちゃんの負担も軽くなし・・・
そうなったら勝彦と逢ってる時間なんてなくなるもん。
それに高校も行ってられるかわからんし・・・」
「楓花・・・
でもそやからって、別れることないやろ?
なかなか逢えんくなるやろうけど、それは仕方ないし、
楓花の負担にはならんようにする。」
勝彦・・・