いつかはお兄ちゃんと、バージンロードを歩きたくて・・・

「お兄ちゃん!! そろそろ時間だよ?」


私はいつものように仕事前の
お兄ちゃんを起こしに行った。


「寝てるの?」


そっと襖を開け部屋に入る。


お兄ちゃん・・・


お兄ちゃんは気持ちよさそうにベッドで寝ていた。


お兄ちゃん・・・
私はそっとベッドに近づき、
寝息を立てるお兄ちゃんの横に立った。


なんとも無防備な寝顔。
私はついその顔に手が伸びてしまう。


しかしその手をサッと引いた。


ダメだ!!


私はもうお兄ちゃんを諦めるって決めたじゃない!!


だから桝田さんと・・・


「楓花・・・大丈夫か・・・」


すると、雄志が突然寝言を言った。


「えっ!?」


「楓花・・・んんっ・・・」


お兄ちゃん? 寝言!? 


どうやら雄志は楓花の夢を見てるらしい。


お兄ちゃん・・・


私はそっとお兄ちゃんの横に潜り込んだ。



「お兄ちゃん、大丈夫かって・・・何?
何が大丈夫なの?」


楓花がそう聞いても、
気持ちよさそうに寝息を立てる雄志。


「全然大丈夫なんかじゃないよ・・・
お兄ちゃん・・・」


「スーッ、スーッ・・・」


「私ね・・・桝田さんと寝ちゃったよ・・・」


楓花の目から涙がこぼれ落ちた。



「お兄ちゃんじゃない、他の男の人に
抱かれたんだよ?
ねぇ、お兄ちゃん・・・嫌じゃないの? 
嫌じゃないの!?  ねぇ? ううっ・・・」


楓花はそっと雄志の体に手をまわした。


「やっぱりダメだよ・・・
私、お兄ちゃんが好きだよ・・・
お兄ちゃんが好きだよぉ・・・ううっ・・・」

お兄ちゃんのせいだからね・・・
お兄ちゃんが悪いんだからね?

お兄ちゃんが結婚するなんて言うから・・・
お兄ちゃんのせいなんだからね!!」


私はスッと雄志に近づき唇にキスをした。


お兄ちゃんは毎日一生懸命働いた、
奈緒子さんも就職を決めたらしい、
二人は結婚に向けて準備をし始めたようだ。


お兄ちゃんは店の借金を返し、
奈緒子さんは二人で過ごすお金を貯める、
決して楽な道ではない、
試練ばかりの生活だけど、
二人はとっては一緒にいれることが
何よりも幸せだったんだろう。
お兄ちゃんも奈緒子さんもいつも笑顔だった。



「奈緒子、それ持つから。」


「ありがとう。」


お兄ちゃんはいつも奈緒子さんを気遣う、
素敵な旦那さんって感じだった。


奈緒子さんが羨ましい・・・


でも私もその後、桝田さんと
付き合うようになり人並みに幸せだ。

桝田さんは本当にやさしくて、
私には勿体ないくらいだ。


だから私も『頑張って桝田さんに尽くそう。』
そう思った。


それから半年が過ぎた。


私はいつものように学校から帰ると、
店で珍しくお兄ちゃんが
声を荒げてお父さんに突っかかっていた。


「何やねんこれ!! どうゆうことやねん!!」


「はぁ? どうゆうことって見たまんまや。」


「見たまんまって・・・
なんでまた金を借りたりしたんや!!」


「お金が足りんからに決まってるやろ!!」


「足りんからって・・・
父さん、わかってんのか?
俺は結婚するるねんぞ?
そのために頑張ってるん知ってるやろ?」



「ああ、それがどうした?」


「それがどうしたって・・・
それやのに借金増やすってどうゆうことや!!
これやったらいつまで経っても
結婚出来んやないか!!」


お兄ちゃんの目が険しくなる。


「したらええやないか。
そしたら奈緒子さんにも
助けてもらえるやろ?」


「えっ!?」


「奈緒子さんも働いてるねんから
お金持ってるやろ?
助けてもらえるやないか。」


「はぁ・・・?」



えっ!?


まさか、お父さんは奈緒子さんが
貯めているお金を当てにしてるの?



「ふざけんなっ!!!」


お兄ちゃんはそう怒鳴って家の中に入って行った。


お兄ちゃん!?


私はお兄ちゃんの後を追いかけた。


するとお兄ちゃんはベランダに立って
夜空を眺めていた。


「お兄ちゃ・・・」


すると、お兄ちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。


そして手すりを持つ手は震えている。


お兄ちゃん・・・


私はそれ以上お兄ちゃんに近づけなかった、
ただ悲しそうに空を見上げて涙を流すお兄ちゃんを
見つめていることしかできなかった。



私では・・・何もできない・・・


私は逃げるように一階に下りてみると、
母親がテーブルの上で頭を抱えうな垂れていた。


お母さん・・・


私はお兄ちゃんとお母さんの見て、
『またか・・・』そう思った。


家族が壊れて行くような、そんな感じ・・・



何度見て来ただろうこうゆう光景を、
まるで何もかもが
終わってしまうようなこの光景を・・・


私たち家族は借金から逃れられない、
この悪夢からは逃れられないんだ。


父親を止めれない限り、
私たちに明るい未来はやって来ないんだ。



「もう・・・ダメだ・・・」


楓花も力が抜けたようにその場にへたり込んだ。



それから三日が過ぎた。


「楓花、どうした?」


「えっ!? いや、なんでもない!!」


「そうか? でも最近なんか
元気ないみたいやけど?」


心配そうに楓花の顔を覗き込む勝彦。


「そう? 全然元気やで!!」


楓花はパァっと笑顔を作って見せる。


楓花たちも付き合って半年、
お互いを名前で呼んでいた。



「それより勝彦は会社どう?」


「ああ、うん。上手くいってるで。
今度は企画の仕事も・・・」


「・・・・・」


楓花は勝彦に聞いておきながら内容は右から左、
話も聞かないでまたボーっとしていた。