「あたしは波美ちゃんを他人の子供だと思って育てたことなんて1度もない」

波美のお母さんの声は怒りと悲しみで震えていた

「波美ちゃんがそんな気持ちならあなたに『東城』の姓は渡せない」

「……。」

波美は赤くなった頬を押さえながら黙っていた

「ただ……」

波美のお母さんは構わず続けた

「あたしのこと少しでも本当のお母さんって思ってくれるなら一緒に暮らしましょ?」

涙を流しながら笑った

「あたしは波美ちゃんが大好きなの」

波美の頬にも静かに涙がこぼれ落ちた


「…………お母さんっ」

2人の抱き合う姿をあたしはずっと離れて見てた

『あたしの気持ちなんかわかんないよね』
そう言ったとき波美はきっと寂しかったんだね

あたしは静かに部屋を出た



「冴慧っ……」

家を出てしばらく歩いていたら波美の声

「あたしは…あんたがうらやましかった」

あたしは振り返った

「転校早々みんなにちやほやされる『東城』がうらやましかった」

波美はもう冷たい瞳をしていなかった

「両親がずっと喧嘩してたし…愛情に飢えてたあたしにとって みんなに歓迎されてたあんたが憎かった」

「波美……」

「…あんたを苦しめたくて『東』のつく名前を利用するとこに行き着いたの」